承継ガイドライン
概要
問題の背景
具体的方法
承継対象
進め方
業績悪化時の承継
上記状況の手法
事業承継の時期
事業承継の準備
廃業するには
後継者決定過程
親族内承継の税金
株式の分散
債務の承継
社員による承継
第三者へ事業承継
実行フロー留意点
種類株式の活用
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当記事では、中小企業庁が出している「事業承継ガイドライン」をわかりやすく書き直したものです。

中小企業庁が開示している事業承継ガイドラインは読み解くには少々難解であるため、弊社独自見解で、わかりやすく概要を抽出し、わかりずらい点は弊社の解釈を加えたものです。

 


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日本において、中小企業は、小規模会社が85%、中規模会社が14%と、合計で企業数の99%を占めています。
また、従業員数でみれば、小規模企業が23%、中規模企業が47%と全体の70%を占めており、中小企業は、
日本経済と地域社会を支える重要な存在となっていることがわかります。


図:企業数の内訳(総務省平成26年)

図:従業員数の内訳(総務省平成26年)

これらの中小企業においては、経営者の交代率が70年代の後半より長期にわたって下落傾向にあり、これに伴って経営者の高齢化が進んでいます。

数字で見ると、経営者交代率は、1975年に平均5%であったものが、約10 年間の平均では 3.5%に低下、2011 年には 2.4%まで落ち込んでいます。これに伴い全国の経営者の平均年齢は59歳9ヵ月と、過去高水準に到達していることがわかります。


図:経営者の平均年齢と交代率(帝国データバンク)

平均年齢の分布をみると、1995年頃に は47歳前後であった経営者年齢のボリュームゾーンが、2015 年には66歳前後になっています。

中小企業経営者の引退年齢は、平均すると67〜70 歳程度であるため、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイ ミングを迎えることが想定され、これを円滑に進めることが日本経済の活力維持・向上のため大きな課題であると言えるでしょう。


図:経営者年齢分布(中小企業庁)

年、少子化問題や、親が子供の職業選択の自由をより尊重する考え方の広がり、また競合の激化や技術革新の速さで将来への不安材料が増し、子供や一族で事業を継ぐ者がいないといった後継者問題を抱える経営者が増えています。その結果、一定の安定的な業績を維持し、将来性にもまだまだ現状の経営を維持できると考えているにも関わらず、数年後には廃業もやむを得ないと考える経営者もあるのです。

こうした現状で、第三者への事業承継も含めて、中小企業における会社・事業承継を円滑に行うことが、次世代に技術やノウ ハウを確実に引き継ぐとともに、雇用を確保し、地域における経済活動への貢献を続けることにもつながるもの言えるのです。

業績に問題のない会社が廃業の道を選んでしまう背景には、企業においては存続可能性(ゴーイングコンサーン)が前提であることを認識していない経営者が多いこと、認識していても事業承継の計画と準備に日頃から着手することを日々の経営の中で置き去りにしていること、などが挙げられます。現に、中小企業経営者の高齢化が進んでいる状況の中、実際に準備に着手している企業は、既に70代、80代に達している経営者ですら半数に満たないというデータがあります。

図表11:経営者の年齢別にみた事業承継の準備状況(帝国データバンク)

では、実際に事業承継の準備には、どれだけの時間がかかるのでしょうか。

中小企業基盤整備機構の実態調査によると、あくまでも身内に後継者候補がいる場合ですが、後継者候補の育成期間も含めれば、事業承継の準備には5年〜10年程度必要との回答が多く、よって引退年齢を70才と設定した場合、60才のころから事業承継に向けた準備を開始する必要があると言えるでしょう。

もちろん、会社経営には定年はありませんし、70才になっても経営の最前線に立っている優秀な経営者もいるでしょう。しかし、経営者の交代があった中小企業においては、交代のなかった中小企業よりも経常利益率が高いとのデータもあるようで、事業承継を円滑に行うことができれば事業の成長の契機となると言えるのです。

そして、企業が商品・サービスを継続して提供し、また従業員の雇用を継続することで、日本経済と地域社会を支えることとなるのです。


図表13:経営者の交代による経常利益率の違い17



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事業承継の具体的な類型として、大まかに、親族内承継、役員・従業員承継、第三者承継(M&A等)の3つのスキームで説明します。

まずは、最も一般的なのは、親族内承継です。
こちらは、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能、所有と経営の一体的な承継が期待できるといった メリットがあります。 しかし、近年後継者問題で、事業承継全体に占める親族内承継の割合が急激に落ち込んで います。
その背景には、少子化問題や、息子・娘の職業選択の自由をより尊重する考え方の広がりがありますが、会社が後継者にとって引き継ぐに値する企業であるのか、事業モデルが陳腐化していないのかと言った将来への不安感があります。これを払拭するために、日頃から経営力の向上に努め、経営基盤を強化することにより、後継者が安心して引き継ぐことができる経営状態を維持してあげることが求められます。
また、事業承継を円滑に進めるためには、現経営者が自らの引退時期を定め、 そこから後継者の育成に必要な期間を逆算し、十分な準備期間を設けて、後継 者教育(技術やノウハウ、営業基盤の引継ぎを含む)に計画的に取り組むこと が大切です。

次に、(親族ではない)役員・従業員への承継です。
オーナー一族に後継者がいない場合にとられるスキームですが、後継者経営者としての能力のある人材を見極めて承継することができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがあります。このスキームの場合、後継候補者に会社を承継するための資金力・信用力が必要になります。
多くの場合、これが大きなハードルになってきましたが、最近は投資ファンドを活用したMBOなどが普及し、件数が増えています。また、このスキームの場合、親族株主が分散している場合、その了解を得ることが必要になりますので、現経営者のリーダーシップのもとで早期に親族間の調整を行い、関係者全員の同意と協力を取り付け、事後に紛争が生じないようしっかりと道筋を付けておくことが大切です。

そして第三者への承継です。
こちらは、親族や社内に適任者がいない場合に、M&Aを活用して広く候補者を外部に求めるものです。現経営者は、資金力・経営力のある第三者に会社を譲渡することにより、会社に新たな成長の機会を与えることとなり、一方で経営者自身は自身が創業した事業の創業者利益を得ることができ、また金融債務の連帯保証から脱することができる等のメリットがあり、事例として近年急増しています。
このM&Aの手続きについては、複雑で、かつ専門的な知識が要求されますので、これを成功させるためには、できるだけ早期に専門家に相談を行うことが望まれます。M&A等によっては最適なマッチング候補を見つけるまでの期間は、M&A対象企業の特性や時々の経済環境等に大きく左右されますが、数ヶ月〜数年と大きな幅 があることが一般的です。
相手候補が絞られた後も、トップ面談、条件交渉、買収監査(デューデリジェンス)等を経て、最終的に相手側との合意がなされます。このため、M&A等を実施する場合は、十分な時間的余裕をもって臨むことが大切です。


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会社を承継する場合、形式的には株式を譲渡するということになりますが、実質的に承継すべき経営資源は多岐にわたり、大別すると、「人(経営権)」、「資産」、「知的資産」の3要素と考えることができるでしょう。
ここでは、この3要素を説明していきます。

まず、人(経営権) の承継とは、具体的には会社トップの地位の承継、つまり代表取締役の交代と言うことになります。
現経営者が、その属人性を基に経営を創業し、成長させてきたとすれば、これを次に誰が承継するかは、今後の会社成長の成否を決する極めて重要なポイントと言うことになります。
よって、親族内承継や役員・従業員承継を選定とする場合は、後継者候補の選定を出来るだけ早期に開始し、承継準備期間を長くとることが望まれます。
また、社内外に適切な候補者がない場合は、M&Aによる外部の第三者への事業承継となりますが、その場合は承継した会社から人材が選ばれることになりますので、柔軟で戦略的なな対応ができるとも言えるでしょう。

次に、会社資産の承継です。
この場合の資産とは、事業を行うために必要な資産、例えば設備や不動産などの事業用資産、債権・債務の全てです。形式的には、株式を取得することで、これらの資産・債権・債務を承継します。
この場合、この株式を親族が贈与・相続により承継する場合、株式の評価価格によっては多額の贈与税・相続税が発生します。複数の親族に分散承継した結果、事業承継後の経営の安定が危ぶまれる等の可能性もあるので注意が必要です。
株式を役員・従業員に譲渡する場合は、後継者に充分な資金力・信用力ないことが多く、大きな課題となります。
また、資産の承継においては、現経営者個人の保証関係の整理・承継を行う必要があり、やはりより規模が大きく信用力のある会社による承継が望まれます。

3つ目の知的資産は、帳簿上の資産以外の無形の資産であり、企業における競争力の源泉である、人材、技術、技能、知的財産(特 許・ブランドなど)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなどの総称です。
中小企業においては、経営者と従業員の信頼関係も事業の円滑な運営において大きな比重を占めており、経営者の交代に伴って従業員の大量退職に至った事例もあります。このような事態は絶対に避けなければなりません。
また、この知的資産こそが会社の「強み」・「価値の源泉」であることを理解し、自身の会社においてはそれがどこにあるのかを棚卸して整理・認識し、これを承継することが重要です。

 

 



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<事業承継に向けた準備の進め方(1〜5のステップ)>

事業承継の円滑化のためには、事業承継は、いつかは必ず行わなければならない事という認識のもと、その準備に早期に着手し、専門家等の協力を得ながら事業承継スキームを検討、並行して収益力の改善・強化と経営改善に取り組みながら、これを着実に実行していく必要があります。

親族内・従業員承継の場合には、後継者とともに事業計画や資産の移転計画を含む事業承継計画を策定し、事業承継を実行します。第三者承継の場合は、事業承継計画を策定し、並行して引継ぎ先を選定するためのマッチングを実施し、M&Aを実行することになります。


ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識

一般的に、事業承継問題は、家族内の課題として捉えられがちであるために、いざ事業承継 の必要性に気付き専門家のもとを訪れた時には既に手遅れになっていたという事例が少なくありません。
このため、経営者が概ね60歳に達した場合は、身近な専門家やM&Aアドバイザリーに相談し、事業承継に向けた準備に着手すべきなのです。事業承継への取組は、本来経営者本人の自覚に委ねられるものですが、日常業務の多忙さ等から対応が後手に回りがちなため、M&Aアドバイザリー会社などからの提案には、決して他人事と思わず、積極的に耳を傾けることも重要です。


ステップ2:経営状況・経営課題等の把握

事業を後継者に円滑に承継するためのプロセスは、経営状況や経営課題、経営資源等の現状を冷静にかつ正確に分析・把握することから始まります。
例えば、事業別・部門別収益実態の把握、商品ごとの粗利分析、資産勘定の時価評価及び存否確認、また実態BS作成による純資産の再評価、会社と経営者個人間の債権債務・保障関係の明確化、業界内における会社の評価・位置付けの確認等、自社の現状を客観的に把握することが重要です。尚、詳しくは「中小企業の会計に関する指針」による説明で、別途補足します。


ステップ3:事業承継に向けた経営改善の継続

事業承継は、次の世代の経営者にバトンを渡し、さらに会社の事業を継続、発展させることを目的にしますが、バトンが渡すまでは事業の維持・発展に努め続けなければなりません。
よって、経営者は日々経営改善に努め、より良い状態で後継者に事業を引き継ぐ姿勢を持つことが望まれる。この経営改善は、業績改善や経費削減にとどまらず、商品やブランド イメージ、優良な顧客、金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、知的財 産権や営業上のノウハウ、法令遵守体制などを含み、継続した努力が必要です。
一方、会社のガバナンス体制・内部統制の向上に取り組むことも大切です。また、事業に必要のない資産や滞留在庫の処分、余剰負債の返済を行うなど会社のスリム化に取り組むことも重要です。 このような経営改善は、対応が多岐にわたるため、効率的に進めるために士業等の専門家やM&Aアドバイザー等の助言を得ることも有益です。


ステップ4−1:事業承継計画の策定

@ 中長期目標の設定
自社の現状とリスク等の把握が完了すれば、いよいよ事業承継計画の作成に入ります。そこでまず取り組むのが、中長期的な方向性・目標の設定です。例えば、10 年後に向けて現在の事業を維持していくのか、拡大していくのか。 また、現在の事業領域にとどまるのか、新事業に挑戦するのか、といった方向性を描くことが必要です。
この方向性に基づいて組織体制のあり方や、必要な設備投資計画等を検討し、さらに、売上や利益、マーケットシェアといった具体 的な指標に落とし込みます。

A 事業承継計画の策定
設定した中長期目標を踏まえ、資産・経営の承継の時期を盛り込んだ事業承継計画を策定します。 具体的な策定プロセスの概要は以下のとおりです。
また、前述のステップ2「経営状況・経営課題等の把握 を十分に実施することが、実効的な事業承継計画の策定の前提となることにも留意する必要があります。

ア) 自社の現状分析
経営状況・経営課題等の把握を通じて把握した自社の現状をもとに、次世代に向けた改善点や方向性を整理します。

イ) 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
事業承継後の持続的な成長のために、変化する環境を的確に把握し、今後の変化を予測して適切な対応策を整理します。

ウ) 事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
自社の現状分析、環境変化の予測を踏まえ、現在の事業を継続していくのか、あるいは事業の転換を図っていくのか等、事業領域の明確化を行います。さらに、それを実現するためのプロセスについても具体的なイメージを固めます。

エ) 具体的な目標の設定
前述の中長期目標の内容について、売上や利益、マーケットシェアといった 具体的な指標ごとの目標を設定します。

オ) 円滑な事業承継に向けたアクションプランの作成
以上の分析・整理を踏まえ、経営体制へ移行する際の具体的なアクションプランを作成します。


ステップ4−2:M&A等のマッチング実施

親族や従業員以外の第三者への事業承継を行う場合、 ステップ1〜3の行程を経た後、承継候補先を検討・絞り込み、交渉を行う、マッチングのステップに移行します。以下では、M&Aの実行に向けた事前準備に簡単に触れます。

1 M&Aアドバイザリー会社の選定
M&Aを実施する場合、自力で一連の作業を行うことが困難である場合が多いため、専門的なノウハウを有するアドバイザリー会社に相談を行う必要があります。

2 売却条件の検討
M&Aを行うにあたっては、どのようなスキームをとるか、 経営者自身の考えを明確にしておく必要があります。例えば、「会社全体をそのまま引き継いでもらう」 、「一部の事業だけ残したい」 、「従業員の雇用・処遇を 現状のまま維持したい」、「社名を残したい」等が考えられます。アドバイザリー会社に事前に売却条件を伝えた上で、条件に合った相手先を見つけることが最善の方法です。


ステップ5:事業承継の実行

ステップ1〜4を踏まえ、事業承継計画やM&A手続き等に沿って資産の移転や経営権の移譲を実行していきます。実行段階においては、状況の変化等を踏まえて随時事業承継計画を修正・ブラッシュアップする意識も必要です。
なお、この時点で税負担や法的な手続きが必要となる場合が多いため、M&Aアドバイザリー会社、弁護士、税理士、公認会計士等の専門家の協力を仰ぎながら実行することが望まれます。

 

 



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<業績が悪化している事業承継は可能か>

経営状態が悪化してしまった会社の場合でも、事業承継は可能です。
ただ、悪化の度合いにより、事業承継のスキームが全く異なってきますので、そこは注意が必要です。

まず、経営状態の悪化と言っても、売上が伸びずに例えば給与等の支払いが滞りがちである、あるいは
金融債務の返済をリスケ(先延ばし)しなければならないといった比較的深刻な事態に陥っている状況でないのであれば、一般的な事業承継案件として進めることが可能です。

会社によっては、事業承継した会社による顧客・販売網の水平統合、あるいは間接部門の統廃合、また従業員の意識改革などで、会社がスムーズに成長軌道を取り戻すケースが多々あります。

近年、後継者がいないために事業承継問題を抱えている経営者の方々においては、比較的年齢が高齢となっていることに伴う経営者の体力的な問題、あるいは事業モデルが最盛期に比してどうしても陳腐化しているといった問題がありますので、足元の業績が低迷しているケースが多いですが、そのために事業承継ができないと言うことは決してありません。場合によっては会社の有形・無形の資産が、宝の持ち腐れになっていることも多々ありますので、是非当社のような専門的なM&Aアドバイザリー会社に相談いただければと思います。

一方で、経営の悪化が深刻な場合は、むしろ会社再生案件として事業承継スキームを検討することが必要になります。その場合は、専門的な知識と経験、またプロジェクトを支える専門家チームが必要となりますので、やはり当社のようなM&Aアドバイザリー会社に早急に相談することが重要です。

会社の経営が深刻になった場合、代理人となる弁護士が必要なケースが出てきますが、弁護士事務所の場合、特に承継候補会社(スポンサー会社)を探索する業務については専門ではありませんし、そのような業務を提供していないのが一般的ですので、そこはM&Aアドバイザリー会社の機動力に託す必要があります。

様々な理由で経営が悪化した場合、経営者は何とか金融債務返済のリスケをして、なんとか自力再生したいと考えます。しかし、私たちの経験では、深刻な悪化に陥った会社には、再生するだけの意欲やエネルギーはもちろん、アイデア、発想力も残っていないのが常と言わざるを得ません。

場合によっては、金融機関向けに会計処理を調整すると言った問題の先送り、時間の引き延ばしに手を染めてしまうケースが出てきます。こうなりますと、たとえ軌道修正ができたとしても、自力再生には相当な時間がかかることとなり、それゆえ再生できる確率も低くなるのです。

このような状況においては、フレッシュな発想と行動力があり、そして何においても資金力があるスポンサー会社に経営を託すことが重要になりますので、このスポンサーを探索することができる能力が重要になってくるわけです。



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さて、ここからは、再生案件としての事業承継について、具体的な説明をさせていただきます。

一般的に中小企業が選択できる事業再生の方法は、公的整理と私的整理があります。経営悪化状態が深刻で裁判所が関与せざるを得ないのが公的整理で、具体的には民事再生及び会社更生があります。一方金融機関に債務の圧縮をお願いすることにより裁判所が関与せずに再生を行うのが私的整理で、中小企業再生支援協議会による調整及び事業再生ADRがあります。その概要を、それぞれいかに説明します。

  1. 民事再生(公的整理)

民事再生法に基づき、裁判所や監督委員の監督のもと、会社経営者自身が主体的に手続きに関与し、事業の継続を図るものです。民事再生において事業を譲渡する場合、再生手続開始決定後すぐに、裁判所の許可を得て事業譲渡を行うプレパッケージ方式と、民事再生手続きを最後まで待ち、債権者の承諾を得て再生計画に基づき、事業譲渡を行うケースがあります。このプレパッケージ方式の場合、民事再生を申請する前から水面下で承継候補会社(スポンサー会社)を探し出し、この会社と基本合意を行っておくことがポイントとなります。
民事再生の基本的な前提として、会社が破産するとなった場合に債権者に支払う配当率を上回る事業価値(対価)で、スポンサー会社が会社を承継することが必要です。この対価が、破産となった場合の配当を上回らない場合は、この会社を継続させる合理的な理由にならないからです。この意味で、できるだけ高額な対価で事業承継してくれるスポンサーを、民事再生の申請前に探し出し(プレパッケージ方式)、再生手続きを戦略的にかつスムーズに進めることがポイントになります。つまり、この民事再生においては、会社の代理人となる弁護士と、特にスポンサーの探索を機動的にかつ迅速に行うことができるM&Aのアドバイザリー会社が、プロアクティブでかつ戦略的な動きをとることが成功の秘訣言ってもよいでしょう。
民事再生申請後、裁判所が定める最終期限日までの間になかなかスポンサー会社が決まらない場合、スポンサー会社が手を挙げる可能性はどんどん減っていくと考えたほうがよいでしょう。

  1. 会社更生(公的整理)

会社更生法に基づき、裁判所の監督のもと、裁判所が選任する更生管財人により企業の再建を図るものです。民事再生は、会社経営者自身が主体的に再生の手続きを進めることができますが、会社更生はそれができないことが決定的に違います。利害関係者が少なく、スピードを優先する場合には、しばしば民事再生が選択されますが、利害関係者の数が多く調整が難しいという場合や、経営責任を明確にして経営陣を総退陣させることを前提にした場合は、会社更生法が適用されます。つまり、会社更生は、大企業に適した手続きと言えます。

尚、公的整理(民事再生及び会社更生)では、金融機関への弁済だけでなく、事業継続に不可欠な取引先への支払いも公平に停止されます。この結果、仮に過剰債務の整理に成功したとしても、その後の取引には重大な支障をきたし、事業の再建は困難となる場合がありますので、注意が必要です。

次に、法的整理のような手続きのルールはないものの、一般的には、債務者の申出により債務の支払いを一旦停止し、交渉により債務免除等に関する債権者の同意を得ていくものが私的整理です。事業譲渡や会社分割、第二会社方式等の手法が併せてとられることが多いです。主な手法は以下のとおりです。

中小企業再生支援協議会による調整
各都道府県に設置された中小企業再生支援協議会が公正中立な第三者としての立場から、中小企業の事業面、財務面の詳細な調査分析を実施し、かつ会社が窮境に陥った原因の分析等を行ったうえで、債務者が同協議会の支援を受けて策定した再生計画案を金融機関に提示し、金融債務の調整(圧縮)を行うものです。金融機関にとっては、公平・中立な支援協および専門家の調査検証経ることで、再生計画案の信頼性・実現性が高まり、受け入れやすくなります。また、会社、債権者のいずれにも一定の税務上のメリットがありますので、会社再生の実現の可能性が高まります。この再生方法は、支援協議会の検証・承認を得るために、若干の時間が必要になりますが、会社としては、最も柔軟に活用できるものとしてお勧めします。

尚、支援協議会による調整は、自力再生、及び事業承継を伴う再生つまりスポンサーによる再生のケースにも適用されますが、やはり当社の経験では、自力再生の可能性は多くの場合現実的ではなく、民事再生の場合と同様、事前にスポンサー(承継候補会社)を探索・確定して進めることが望まれます。また、スポンサー企業が、事業承継のために、一定の対価を会社に支払い、これを金融債務の返済に少しでも充当することで、金融機関の同意も得られやすくなることを認識すべきでしょう。

以下では、事前に会社を承継してもらうスポンサー探索を進め、会社承継のための対価も大まかな了解を得たうえで、再生を行うケースを簡単に説明します。

スポンサー会社の探索とコンタクト

スポンサー会社との条件交渉と基本合意の締結

会社から支援協議会への初期説明と支援協議会の検証

支援協議会の支援妥当性判断(初期判断)

支援協議会支援のもと会社とスポンサー会社による事業計画案の作成

支援協議会による事業計画書の合理性、公正性等の調査・検証(第二次判断)
↓ 
金融債務圧縮額を含む再生計画最終案の金融期間への提出と承認(再生計画成立)

金融債務圧縮、再生計画に定めた経営改善施策の実施

 

事業再生ADR(私的整理)
私的整理のうち、根拠法令に基づき制度化され、公正中立な第三者が関与して行われる手続のことを「準則型私的整理手続」といい、事業再生ADR手続が、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)や、産業競争力強化法等の根拠法令に基づき制度化されたものです。具体的には、事業再生ADRの利用を申請した会社が策定した事業再生計画について、その適法性、合理性等に関する手続実施者の調査を受けるとともに、対象とされた債権者との間で合計3回の債権者会議および期日間の面談等を通じて協議を行い、対象債権者全員一致の同意により事業再生計画を成立させるものです。調整においては、双方の税負担を軽減し、債務者に対するつなぎ融資の円滑化等も図っています。

以上、いずれの方法をとる場合であっても、プロジェクトを戦略的にかつプロアクティブに進めることが成功のカギになりますので、できるだけ早くM&Aアドバイザリー会社に相談することをお勧めします。 この場合、M&Aアドバイザリー会社によっては、再生案件に関する専門的な知識・経験のない会社も多々ありますので、注意が必要です。

 

 




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適切なタイミングは、経営者の方の意欲や体力の問題とは思いますが、一般企業の定年退職が60才からを考えると、これが一つの目安にはなるのではないでしょうか。

例えば、中小企業庁の実施した調査によると、経営者が50歳代を過ぎ、年齢が上がるほど、投資意欲は低下し、リスク回避性向が高まることが明らかとなっています。また 経営者の交代があった中小企業において、交代のなかった中小企業よりも経常利益率が高いとの報告もあります。これらのことから、中小企業において早期に事業承継を実現することは、中小企業の事業活動の活性化に寄与するものであり、また地域経済の活力維持・向上のためにも、事業承継に向けた早期の取組を推進していく意義がありそうです。

図表:経営者の年代別に見た成長への意識
(出典:帝国データバンク「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月)


  1. 図表:経営者の年代別に見た今後3年間の投資意欲
    (出典:帝国データバンク「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月)

  2. 表:経営者の交代による経常利益率の違い
    (出典:帝国データバンク「COSMOS1企業単独財務ファイル」 、「COSMOS2 企 業概要ファイル」再編加工)






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1、まずは事業計画の作成を
昨今の社会経済が大きく変化する状況下においては、前(現)オーナーが営んできた事業モデルをそのままの形で承継することは必ずしも正しい承継方法ではありません。事業承継後に、新しい経営者が新たな視点をもって従来の事業を見直すことは、新たな成長ステージに入ることを可能にします。 むしろ、承継する側の会社は、従来の事業を継続するだけでは大きな成長は見込めないことを踏まえて事業承継をするべきなのです。
そのために、事業承継の意思決定においては、既存の事業を活かしつつ、会社が有する知的資産や事業環境を踏まえて新たな事業モデルを付加した中期事業計画をできるだけ具体的に作成し、それが現実的であるか否か前(現)オーナーの意見も聞きながらまとめあげることが重要です。

2、そして新しい組織の見直し
また、事業計画を作成するにあたり、より効率的でかつ戦略的な経営を実行できるよう、会社組織の見直しを行うことも重要です。例えば、M&Aにより新しい会社が事業を承継する場合、事業を取得した会社とのシナジー効果を最大化するために、経営資源の集中や管理機能の集約、マーケットの集約を通じた競争力の強化等を行うことで、経営の効率化を図り、強い会社として生まれ変わることができるのです。
さらに近年は、事業承継を契機として2つ以上複数の会社が統合し、経営資源の集中や管理機能の集約、マーケットの集約を通じた競争力の強化等を行うことで 経営の効率化を図り、かつ企業規模の拡大を実現して強い会社として生まれ変わり、グループとして株式を上場させるケースも出てきています。

図表:事業承継を契機とした統合による効率化の例

    このように、事業承継に際しては、承継後に展開する事業や承継後の事業計画の作成検証、承継後の会社組織再編の準備を入念に行うことが不可欠です。このような取組なくして、 事業承継後の更なる成長は期待できないと言っていいでしょう。




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これまでに営んできた事業モデル・商品が陳腐化し、また事業拠点が老朽化している等の理由により、事業の継続性に不安がある場合、身内に後継者候補がいたとしても事業承継がなかなか進まないことは、これまでに延べてきました。 このような場合は、廃業という選択肢を選ぶことなく、できるだけ早い段階で外部の第三社に経営権を譲渡し、新たなアイデアや経営意欲、また承継する会社との事業シナジーによる、新しい会社運営を託すことが望ましい旨、これまで説明してきました。
というのは、会社の経営においては、従業員、従業員の家族、金融機関、取引先、消費者と言った利害関係者が多数存在し、この利害関係者が、企業の運営が将来に亘って継続されることを前提として関わっているからです。近代の会計原則は、まさにこの企業の継続性の原則(ゴーイングコンサーン)の前提のもとにその論理が構築されているわけです。 しかしながら、最終的にどうしても事業承継を断念することとなった場合には、廃業を決断した経営者が、従業員や債権者に損失を与えることのなういよう、十分に経営余力のあるうちに、計画的に廃業の手続きを行う必要があることは言うまでもありません。

実際に会社を廃業する場合、中小企業経営者がどのような課題に直面したのか、中小企業庁が実施したアンケート調査の結果がありますのでご覧ください。これによると、「取引先との関係の清算」(40.7%)、「事業資産の売却」(21.3%)、従業員の雇用先の確保(16.4%)、債務整理(16.2%)が上位に挙げられています。

図表:廃業時に直面した課題
(出典:帝国データバンク「中小企業者・小規模事業者の廃業に関するアンケート 調査、2013年12月」

    このように、廃業にあたっては、多くの課題がありますので、これに対処するための具体的な対応策をしっかり検討し実行する必要があります。顧客との取引契約がどのようになっているか、契約終了に伴いペナルティーはないか、いつまでに告知すればよいか、売却可能資産の特定と売却可能性・時価・取引価格の把握、労務に関しては退縮金の算定やコンプライアンスリスクの評価、金融機関への告知のタイミングなどが列挙できます。

    これらの手続きを踏むにあたって、最初に取るべきことは、実態としての財務状況(実態バランスシート)を、事前に正確に把握することです。特に、会社を清算するにあたり、清算バランスシートを作成しますが、この時点で純資産がマイナスになっているとしたら、債務をすべて返済できないと言うことになるからです。このような場合は、最終的には個人資産の処分による金融機関借入の返済等の債務整理に着手必要に迫られます。 この実態あるいは清算バランスシートは、その作成目的により若干の違いがあり、ここでは詳細の説明を省きますが、共に言えるのは、債権債務を時価で評価し、実態のない債権債務は消し込まれたものということです。

    通常、ゴーイングコンサーンの原則に基づいた会計処理をする場合、期間損益に反映されない項目はバランスシート項目に仮計上され、例えば長期前払い費用などは、実態のない繰延資産として計上されています。このような資産は、一旦企業の継続性が途絶えた場合、損失として処理しなければなりません。一方、保有している土地建物などは、取得時の取得価格にて計上されているのが通常ですが、土地の時価が取得価格より大きく上回って入れば大きな含み資産となっている場合があります。ただし、土地の場合、売却し換金するには時間がかかる場合がありますので、これも考慮する必要があるでしょう。 このように、やむを得ず事業を廃業する場合は、事前の綿密な準備が必要になりますので、早めにFA会社や弁護士に相談いただくと同時に、最後まで事業承継を可能性をあきらめないで活動いただければと思います。





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Q:将来、会社を長男か次男に継いでもらおうと考えていますが、どのようなプロセスを踏んだらよいか

1、後継者候補の選定
後継者の選定は事業承継に向けた第一歩であり、事業承継の成否を決する重要な取組であることは間違いありません。そこで、一族内で事業の承継をお考えの場合、経営者は、思い込みではなく色々な要素を踏まえて後継者候補を早い段階から検討し、絞り込むことが望まれます。そして、後継者候補が絞り込まれ、後継者候補本人の原則的な同意も得られれば、一定の期間に必要な育成を行っていくことになります。

同時にここで忘れてはいけないのは、経営者は例えば長男であるから、あるいは娘より息子の方が、と言った理由から、経営者が考える後継者候補に、なんとなくあるいは強引に承継強いるということは避けるべきということです。また、どう見ても経営者としての資質を持ち合わせていない、あるいは人物的に向いていない場合、一族だからと言えども候補者とすべきではありません。

2、後継者候補との対話
事業を承継するということは、後継者の人生に大きな影響を与える難しい決断であることは間違いありません。昨今、価値観や事業モデルの多様化が進み、家業であってもなかなか承継に踏み切れないといったケースが増えています。ましてや、事業モデルが陳腐化し会社の未来に不安要素がある、金融債務も多く残っているとなると、事業を承継して経営にチャレンジしてみようといった、経営者にとって最も重要な意欲がわいてこないのです。

そのためには、後継者候補が絞り込まれれば、早い段階から本人との対話を重ね、会社の強み弱み、事業の実態、財政状態を開示するとともに、創業者あるいは現経営者の想いや経営 理念、そして会社が持つポテンシャルと事業計画を共有し、最終的に「よし、それなら自分が会社を承継して、会社を更に成長させよう」との自信と意欲を持って自ら決断をしてもらうことが必要です。つまり。決して「以心伝心」や「阿吽の呼吸」でなんとなく会社の未来を託すのではなく、事業の実態を正直に開示したうえで、ともに会社の未来をじっくり考えてもらい、事業承継への意欲を熟成させることが重要なのです。

3、後継者候補の育成
後継者候補が、事業承継に原則的に同意すれば、承継に向けて育成を行うことになります。中小企業の経営者には、会社の事業運営に関する現場の知見はもちろん、営業・マーケティング、財務会計、労務、法務等、経営管理等に関する幅広い知識が少なからず求められます。このような知識・経験を短期間で習得することは簡単ではありません。そこで、後継者の育成には十分な期間を準備し、必要な経験を積ませることが望ましいのは言うまでもありません。その方法と育成方法としては、大別して社内教育と社外教育が挙げられます。

図表19:後継者の育成方法について重視するこ
(出典:日本政策金融公庫総合研究所「日本公庫総研レポート 中小企業の事業承継」、2010年)

 

社内での教育は、会社に入社してもらい実際に事業に関与させる、最も自然な形ものです。会社の事業現場に直接関する知見や会社特有の運営方法を学ぶことができ、また他の従業員との信頼関係や一体感を築くことができるメリッ トがあります。また、現経営者と共に仕事をすることにより、経営理念を含めて経営者として考え方や動き方を直接受け継ぐことができる側面もあります。
社内においては、入社する年齢にもよりますが、初めから一定のポストに就くのではなく、例えば営業や製造の現場、総務、財務、労務といった各分野を一通り経験させるローテーションプログラムを組むことにより、会社全般を通して実態把握を行い、問題意識を持ってもらうことが重要です。特に、経営者が財務会計の知識を有することは、近代経営においては大変重要です。財務部門に長く配置する必要はありませんが、日頃から財務・経営管理上の知識に基づいて、経営上のデータをモニターすることを習慣化させることが望まれます。

一方で、経営企画といった経営の中枢を担ってもらうことで、会社のおかれた事業領域の知見を深め、そこで会社がどのような位置づけにあるのか、その事業領域事態に変化・再編が起きていないか判断しながら、中長期的な事業計画や成長戦略の作成に携わる機会を与えることもお勧めします。

社外での教育においては、取引先あるいは自社よりも規模の大きな同業他社で勤務経験を積むことが代表的な方法です。一般的には、後継候補者が就学後すぐに入社し、一定期間勤めたあと自社に戻ると言うケースです。これにより、自社よりも高度な経営手法や技術、また会社のあり方について、自社では学べない経験を積むことができ、また外から自社を客観的に見る視点を持つことができ、それが自社の改革・成長を促すきっかけとなるといったメリットが挙げられます。ただし、他社における勤務は、当初より育成として受け入れてもらう前提となりますので、受け入れる側としては、一定期間後には自社に戻ることを考えると、人材への投資もしづらくなり、戦略的な部門への配置も難しいといった実態もあることは認識すべきでしょう。

一方、外部のセミナー等で体系的な教育を受けることも、社外教育として挙げられます。 こちらは、社内教育と並行して行うことができます。例えば、各種トレーニング会社の「管理職セミナー」や「リーダーシップセミナー」等に参加する、商工会・商工会議所や金融機関等が主催する「後継者塾」や「経営革新塾」等に参加する、また大学や専門学校等の教育機関で、経営学や法務、また財務会計理論を学ぶもので、経営に関する広範かつ体系的な知識を得ることが期待できます。ただし、これらの方法では、どうしても短期間での習得にならざるを得ないため、一過性の意識改革で終わる可能性が高いことも認識するべきでしょう。何よりも重要なのは、後継者候補に事業を承継する自覚を持ってもらい、自身で継続的に自己啓蒙に励むことが望まれるところです。

4、親族等との調整
一族内で事業承継する場合、家業の次の後継者が誰になるのかということは、経営者個人の問題にとどまらず、経営者の兄弟、経営者の子供、また配偶者をはじめとする親族にとっても強い関心事であります。これは、例えば家業な何代にも引き継がれ、株式が親族内で分散しているといったことであれば、株主たる親族としての大きな関心であり、また経営者の推定相続人にとっては、自身が将来的にどのような財産を相続するかという関心でもあるのです。また、後継者が事業承継後に株主たる親族等の賛同が得られ経営に関する協力が得されることは、後継者による円滑な事業運営にとっても不可欠な要素であることに間違いがありません。 そこで、経営者のリーダーシップのもと、日ごろから家族及び親族との対話を図り、時間をかけて親族の同意を得ていくことが極めて重要になるのです。

5、従業員・取引先・金融機関への周知
一方、会社において日常的に経営者と接している従業員や、取引先・金融機関にとって、次の後継者候補が誰になり、どのような計画で事業承継が行われるかは、言うまでもなく大きな関心ごとであります。従業員にとってみれば、後継者候補がいつまでも決まらなければ、会社の将来性に対する不安が募りことにもなります。そこで、できれば早いうちに後継者候補や将来の事業承継計画を従業員にも周知しておくべきでしょう。また、取引先や金融機関に対して、事業承継の話題を持ち出すこと自体が信用問題につながると考え、避けてしまう経営者もありますが、取引先や金融機関にとって、経営者が高齢であるのに事業承継の計画が明示されないよりは、後継者候補の紹介を受け、事業承継に向けた計画を明示されたほうが、将来にわたって取引関係を継続していく上でも有益であることは明らかなのです。

6、経営の承継の実行
事業の後継者が確定し、一定期間の育成が行われ、かつ関係者への周知も行われれば、実際に事業を後継者に承継する段階を迎えます。会社形態であれば、代表取締役の交代による経営権の承継と、株式の移転による経営権の承継を行うこととなります。経営権については、現経営者が代表取締役を辞任し、後継者が代表取締役に就任するための会社法上の手続き取られます。この際、取締役会設置会社においては取締役会決議が、取締役会非設置会社においては定款の定めに従った手続きが必要となります。株式については、贈与等の方法によって株主たる地位を後継者に承継し、会社の株主名簿の書き換えや、贈与であれば贈与税の申告等の手続きが必要となります。

個人事業主の場合には、ある事業の代表者を示す客観的な概念が存在しないため、一般的には現経営者が税務署に対して「廃業届」を提出し、後継者は「開業届」を提出することと なります。

以上です。





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Q)長男に会社を承継しようと思いますが、どのような税金がかかりますか、教えてください。

親族内承継においては、現経営者から後継者に対し、会社株式や事業用資産を、譲渡ではなく、贈与・相続により移転する方法が一般に用いられます。この場合、贈与税・相続税の負担が発生しますが、事業承継直後の後継者においては、資金力が十分でなないケースが多く、場合によっては会社の財産が後継者の納税資金に充てられることがしばしばあります。このような場合、事業承継直後の会社に多額の資金負担が生じることとなり、 事業承継の大きな障害となってしまいますので、事前にどのような額になるのか、どのような節税対策があるのか、しっかり把握することが重要です。

1、暦年課税による贈与税
贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2つの方式があります。暦年課税は、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額をもとに贈与税を課税する方式です。ここでの合計額は、同じ人から2回以上贈与を受けた場合や、同一年に2人以上から贈与を受けた場合に、それらを合計するという意味です。

暦年課税における贈与税は、贈与を受けた財産の価額から基礎控除額110万円を差し引いた金額について課せられ、贈与者と受贈者の続柄、また受贈者の年齢によって、税率は10% 〜55%の累進課税となります。そのため、株式の評価額が高い場合には贈与税も非常に高額となり、後継者に多くの株式を贈与することが困難となる場合がありますので、注意が必要です。

尚、税率の体系として、直系尊属(父母や祖父母など)以外の贈与者(兄弟や夫婦など)から贈与を受けた場合や、直系尊属の贈与者から贈与を受けかつ受贈者の年齢が20歳未満の場合は「一般税率」、一方、直系尊属の贈与者から贈与を受けかつ受贈者の年齢が20歳以上の場合は「特例税率」が適用されることになります。いかがその税率です。

・一般贈与財産用(一般税率)

・特例贈与財産用(特例税率)

例えば、課税価格400万円の一般贈与財産の贈与を受けた場合、次のような計算方法になります。
( 400万円(課税価格)- 110万円(基礎控除額))×15%(一般税率)- 10万円(控除額)=33万5,000円(贈与税額)

2、相続時精算課税による贈与税
相続時精算課税は、贈与者が60歳以上の父母または祖父母であり、受贈者が 20 歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫に該当する場合に選択できる課税方式です。税率は一律20%、特別控除額は最大2500万円となっています。最大2500万円というのは1年の金額ではなく、1人の贈与者あたりの金額です。

この方式を選択した場合、相続が発生すると相続時精算課税が適用される財産の価額と、別途相続または遺贈を受けた財産の価額の合計をもとに計算した相続税額から、すでに支払った相続時精算課税に係る贈与税分の税額控除が受けられます。いわば「相続税の先払い方式」なのです。

例えば、自分の親から1年目に2,000万円、2年目にも2,000万円の贈与を受けた場合は、まず1年目の2,000万円は特別控除額の2,500万円を利用すると贈与税額は0円になります。しかし、2年目の2,000万円は残った特別控除額の500万円を差し引いても1500万円は残ります。この金額に一律税率で20%をかけた300万円が、贈与税額になります。

ただし、一旦相続時精算課税制度を選択すると、その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され、暦年課税制度によることができないため、注意すべきです。また、贈与者の相続時には、贈与財産の贈与時の価額が相続財産に合算されるため、贈与財産の価額が相続時に上昇した場合には有利に、下落した場合には不利に働きます。従って、暦年課税制度と相続時精算課税制度のいずれによるかは、贈与が可能な期間や所有財産の価額の動向を勘案して慎重に選択する必要があります。

 

参考:暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較



3、事業承継税制による相続税及び贈与税
平成20年に成立した経営承継円滑化法に基づき、平成 21 年度税制改正により、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除制度」(事業承継税制)が創設されています。こちらは、非上場株式等についての制度ですので、利用者は会社形態の経営者が想定され、個人事業主の経営者の利用は想定されません。

事業承継税制は、事業承継に伴って発生する相続税・贈与税の負担により事業継続に支障が生ずることを防止するため、一定の要件のもと、その納税を猶予・免除する制度です。事業承継税制(相続税)を利用した場合、下記の事例のように、大きな税負担の軽減効果が期待できます。


3-1、相続税の納税猶予・免除制度

この制度は、後継者が相続又は遺贈により取得した非上場株式について、相続開始前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の総数の3分の2を上限として、係る相続税の80%の納税が猶予される制度です。

本制度の適用を受けるためには、経営承継円滑化法に基づく経済産業大臣の 「認定」を受け、5年間平均8割の雇用維持等の要件を満たす必要があります。要件を満たせなかった場合には、猶予中の税額を納付しなければなりません。

また、以下の場合に、猶予された相続税の一部又は全部が免除されます。
@後継者が死亡した場合
A会社が倒産した場合
B後継者が次の後継者へ贈与を行った場合
C同族関係者以外に株式を全部譲渡した場合
(譲渡額が猶予額に満たない場合、その差額部分は免除され、譲渡額を納付すれば足りる)


図:相続税の納税猶予・免除制度(概要)

 

3-2、贈与税の納税猶予・免除制度(事業承継税制/贈与税)
後継者が贈与により取得した非上場株式について、贈与前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の総数の3 分の2を上限として、係る贈与税の100%の納税が猶予される。 要件及び効果については、以下の通り、相続税の納税猶予・免除制度と概ね同様である。


図:贈与税の納税猶予・免除制度(概要)

 

3-3、贈与税の納税猶予中に先代経営者が死亡した場合
贈与税の納税猶予(免除制度)の適用を受けている間に、先代経営者(贈与者)が死亡した場合には、後継者の猶予されていた贈与税は免除され、代わりに相続税が課税されることとなます。ただし、一定の手続き(切替確認)を受けると、上記の相続税の納税猶予・免除制度に移行することとなります。

以上のとおり、事業承継税制では、相続税と贈与税の納税猶予及び免除制度を組み合わせて活用することで、相続のみならず生前贈与による株式の承継に伴う税負担を軽減することができ、将来にわたる円滑な事業承継が可能となります。

4、小規模宅地等の特例
こちらは、一定の宅地等を相続した場合には、相続税の課税価格から一定の割合を減額する制度です。宅地等の用途ごとの評価額の減額割合、適用対象となる土地面積の上限は以下のとおりとなります。

具体的には、被相続人等の事業の用に供されていた特定事業用宅地は、申告期限まで事業を継続すること等の条件を満たした場合、400 uまで評価額の 80% が減額されます。

この制度は、土地を事業用に利用している個人事業主にとって、 非常に有用な制度であるといえます。 例えば、500 u、総額 1 億円の土地、相続人が子供 1 人の場合の計算例は、

【減額される額】1億円× 400u/500u ×80%=6,400万円
【相続税の課税価格】1億円−6,400万円=3,600万円
【課税遺産総額】3,600万円−3,600万円(基礎控除額)=0円

となります。

この制度は、経営者個人の所 有する土地を自社の事業に利用している会社経営者による利用が想定される。

5、退職金に係る税金
一般に、退職金はその支給を受けた人の所得税等の課税対象となりますが、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職金は、相続税の課税対象となります。以下、その内容と課税について説明します。

5-1、相続財産とみなされる退職手当金等
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職引当金、功労金その他これらに準ずる給与は、退職引当金といい、これを受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。

尚、死亡後3年以内に支給が確定したものとは次のものをいいます。
(1)死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
(2)生前に退職していて、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの

5-2、非課税となる退職手当金等
相続人が受け取った退職手当金等は、その全額が相続税の対象となるわけではありません。
全ての相続人が取得した退職手当金等を合計した額が、非課税限度額以下のときは課税されません。

500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

尚、相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用はありません。

5-3、課税される退職手当金等
一方、全ての相続人が受け取った退職手当金等を合計した額が、非課税限度額を超えるときの超える部分の金額及び相続人以外の者が受け取った退職手当金等の金額が相続税の課税対象になります。

相続人が受け取った退職手当金等のうち課税される退職手当金等の金額について、具体的には、次の算式により計算します。

5-4.事例
被相続人の死亡によって退職手当金等を次のとおり受け取った場合


(1)非課税限度額の計算
500万円×3人(法定相続人の数)=1,500万円
(Cは相続を放棄していますが、法定相続人の数には算入します)

(2)各人の非課税金額の計算

(3)各人の課税価格に算入される退職手当金等の額






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Q)親から引き継いだ会社を息子へ承継しようと考えていますが、身内の兄弟などに株式が分散してしまっています。どうしたらよいでしょうか?

実質的に現経営者が経営権を握っているものの、経営に全く関与していない親族などが相当の比率で株式を保有しているというのは、中小企業ではよく見られるケースです。そのように至った背景として、創業者である先代からの株式の相続に際し、遺産分割や、相続人として必ず受取ることのできる最低限度の相続財産権の行使によって、株式が親兄弟などの相続人に分散してしまっていることが挙げられます。

このような場合、将来会社が成長して会社の規模が大きくなった時に、株主総会の運営等をはじめとする株主管理コストが高まることが想定されます。また、親族間であれ、むしろ親族間であるがゆえに、何らかの事情で株主間の対立が起きたりすることも考えられ、その場合には高い単価での株式の買取りを請求され、会社の資金が流出すると言った事態が発生するケースも想定されます。そうなれば、事業の円滑な承継が阻害され、後継者が、会社の支配権を確立することが難しくなるのです。また、事業承継のスキームとして、将来身内以外の第三者に会社を承継するM&Aスキームを選択することになれば、相手の会社は原則すべての株式を取得するスキームを希望しますから、株式の分散が大きな課題になる可能性があります。

このような事態を避けるために、持株の分散については、できれば事業を承継するまでに、現経営者に再集中させておくことが望まれます。その場合、現在の経営者の手元に十分な資金があるのであれば、経営者が他の株主から株式を買取ることで進められますが、経営者に十分な資金がないのであれば、会社が自己株を買い取ることも選択肢となります。

一方、株式の買い取りについては、買い取り単価と税の問題が生じます。社歴が長い会社で、純資産が大きくなっていれば、それぞれの株主の持ち分は相応に大きくなっているはずです。その場合は、それぞれの株主には相当の税が発生しますから、これを事前に把握する必要があります。株式価格の評価については詳細な説明が必要ですので、別の機会にさせていただきますが、いずれにしても、株式の買取をスムーズに進めるためには、他の株主とは単価について円満な合意を得る必要がありますので、できるだけ早い時期に準備をする必要があります。

Q)息子に会社を継いでもらおうと思いますが、株式が分散しないようにするにはどうしたらよいでしょうか。

一般的に、中小企業における株式の分散は、生前から先代経営者が相続発生を見据えた対策がなされていないことに起因することが多いです。その意味で、その株式分散を防止する最もシンプルな対策は、経営者から後継者へ株式の生前贈与を戦略的に行うことといえるでしょう。ただ、生前贈与の場合、一定額以上の株式を承継すると、後継者に多額の贈与税が課税されることも考えられますから、その場合は、既に説明しました暦年課税制度、相続時精算課税制度、事業承継税制等を活用することにより、贈与税の軽減策を検討することも不可欠となります。

また、各種の軽減税制を検討しても、その負担額に耐えられない場合は、経営者の他に安定株主を導入する方法が考えられます。ここでいう安定株主とは、基本的には現経営者の経営方針に賛同し、長期間にわたって保有を継続してくれる株主で、具体的には、役員・従業員持株会、プライベートエクイティー投資ファンド(PEファンド)、金融機関、取引先等が考えられます。

安定株主が一定割合の株式を保有する場合、経営者は当該安定株主の保有株式と合計して安定多数の議決権割合を確保すればよいため、承継すべき株式の数は相対的に低下します。また、総株式数から安定株主の保有株式を控除した部分が承継の対象となるため、税負担が減少することになります。最近では、事業承継の際にPEファンドに一定の持ち分を譲渡し、数年後に会社がこれを会社が買い戻すMBOスキームなども用いられるようになり、戦略的な方法として検討すべきと考えます。

なお、安定株主導入の副次的な効果として、中小企業の経営に第三者の立場として参画することで、客観的な視点からの助言や、中小企業経営者が持っていない知見に基づく助言を受けられるといったメリットがあります。特に、PEファンドによるMBOスキームでは、資金的にも人的組織においても潤沢な経営資源を有するマネージメントに一定期間経営を託すことにより、会社が急成長し企業価値を高めるケースがしばしばみられます。会社が成長し、内部留保した資金で会社がPEファンドが有する株式を買い戻すことにより、創業家、あるいは会社プロパーのマネージメントに経営権を戻すことができるのです。

尚、経営者の年齢が高齢になれば、突然病に倒れるようなケースも否定できません。よって、経営者が一定の年齢に達した場合は、遺言において、どの財産を誰に承継するかを明確にしておくことにより、相続争いや遺産分割協議を回避し、後継者に株式や事業用資産を集中させることができます。遺言がなければ、遺産の分割方法は遺産分割協議を経て決定することとなり、結果として自社株式や事業用資産が分散してしまったり、協議がまとまらずに相続紛争に発展してしまったりする事例も見られます。先の話にはなるかもしれませんが、いつかは考えておくべきでしょう。

 




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Q)身内に会社の継承を考えていますが、会社の金融債務に対して個人の連帯保証をしています。どうしたらよいでしょうか。

中小企業においては、会社の借入れについて現経営者が個人の連帯保証を提供している、また自己所有の不動産等を担保に提供しているケースが一般的で、これらを解除しなければ、事業承継後も現経営者がそれらの負担を追い続けることとなり、身内に事業継承した場合、相続が発生すれば債務を相続人間でどのように負担するのかといった困難な問題が生ずることとなります。従って、このような将来の相続時のリスクを回避するためにも、事業承継時に現経営者から後継者へ、事業用資金の借入債務や担保に供している事業用資産も併せて承継しておく必要があります。

ただ、従前金融機関は、経営への規律付けや信用補完の観点から、経営者に連帯保証を求めてきた経緯があり、その際には、当然経営者の経営能力に対する評価が前提とされてきました。一方で、身内での事業承継においては、一般に経験やノウハウの少ない後継者が事業を承継することになるため、結局、金融機関は事業承継時の保証の承継・解除に対しては消極的な姿勢を示してきた実態があります。このような実態が大きな課題のひとつとなり、事業承継が進まない要因の一つとなっていることも事実です。

このような中、経営者保証の課題・弊害を解消するため、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」により、平成25年12月に「経営者保証ガイドライン」が策定されて、中小企業経営者の個人保証の問題に関し、新しい考え方をしめすことに至っています。

これによると、事業承継を進める中小企業の経営者が、金融機関に経営者保証の承継・解除を進める前提として、会社側に以下のような具体的な対応を求めています。

まず、
@ 会社が経営者に依存しない融資を受け入れるために、法人と経営者との関係の明確な区分・分離、
A 財務基盤の強化、
B 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保、
を進めることです。

次に、事業承継時の対応として、C現経営者及び後継者は、金融機関からの情報開示の要請に対して適時適切に対応すること。特に、経営者の交代により経営方針や事業計画等に変更が生じる場合には、誠実かつ丁寧に説明を行うことです。

この経営者保証ガイドラインは、金融機関にも経営者保証を求めない可能性の検討を求めていますが、まずは経営者側がガイドラインに沿った対応を行い、金融機関へ積極的に継承・解除申し出を行い、話し合いを進めることが重要となります。




承継ガイドライン
概要
問題の背景
具体的方法
承継対象
進め方
業績悪化時の承継
上記状況の手法
事業承継の時期
事業承継の準備
廃業するには
後継者決定過程
親族内承継の税金
株式の分散
債務の承継
社員による承継
第三者へ事業承継
実行フロー留意点
種類株式の活用
信託の活用
M&Aコラム一覧


 

Q)親族に後継者がいないため、会社を社員に譲りたいのですが、その場合の課題と対策を教えてください。

経営者が、親族には適切な後継者がいないと判断し、例えば会社に長く貢献してきて会社の経営方針や経営環境、また何より会社の顧客を熟知している社員に会社を譲りたいと考えるケースは、しばしばあることです。この場合、経営者は社員に株式を有償譲渡することになりますが、この社員がそのための資金を有しているか、あるいは調達できるかが問題になります。場合によっては、贈与するというスキームも選択肢になりますが、その場合にも会社の価値評価によっては、会社を引継ぐ社員(後継社員)に多額の税が発生し、やはり資金の問題が発生します。

また、親族に適切な後継者がいないといっても、経営者が保有する会社株式は相続の対象となる財産ですから、例えば第三者である社員に贈与するような場合は、経営者の親族との合意形成が重要となり、そのために相当の時間がかかることも予想されます。また、有償譲渡する場合においても、その価格については親族との合意形成が必要になるかと思います。

一方、株式を親族に贈与して経営は後継社員に任せるといった、所有と経営を分離させる方法も考えられます。しかしながらその場合、金融機関からの債務があり、これに経営者が連帯保証をしているとすれば、難しい課題が残されます。もし、この後継社員が代表取締役に就任するのであれば、金融機関はその後継社員による連帯債務の引継ぎを前提とするでしょう。その場合、株式を所有する会社のオーナーとなっていない後継社員が連帯債務に応じることは考えにくいでしょう。また、応じたとしても、この後継社員個人の財政的な信用力が十分でないとすれば、銀行がこれを了承しないことも考えられます。また、株式だけを相続した親族が、経営には一切関与せず、あるいは関与できない状況で、連帯保証を引受けることは、親族あるいは金融機関としても現実的ではなく、その場合、経営者が経営から退いたあとも連帯保証を解除できず、実質的な事業承継ができないということにもなるのです。

尚、所有と経営を分離させる場合、後継社員と親族との関係を調整するために、無議決権株式や優先株式等を活用するケースも選択肢として考えられますが、中小規模の会社の事業承継と会社成長を考えた場合に、戦略的な解決策であるとは言い切れない面があります。

そこで、是非検討いただきたいのは、MBOと言われるスキームです。他のコラムでもしばしば言及していますが、MBOは、Management Buy-Outの略称で、後継社員が、自己資金及び金融機関等の協力を得て会社の株式を買取り、会社を承継するスキームです。

金融機関から資金を調達する場合、会社が生み出すキャッシュフローと資産を担保に借り入れを行います。その意味では、いわゆるレバレッジド・バイアウト(LBO)のスキームとなり、そうなればこれまでよりキャッシュフローを増加させ金融債務を返済していく必要がありますので、日本の金融機関ではなかなか理解が得られない場合も少なくありません。形式上、後継社員が特定目的会社(SPC)を設立して、SPCが融資を受け、会社の株式を買取るスキームをとることもありますが、実質的に会社とSPCは一体のものとみなされます。

一方、投資ファンドに資金の協力をお願いする場合は、経営者が後継社員と投資ファンドに株式を売却、投資ファンドは後継社員の経営運営を支援、あるいは必要な場合に人材を派遣して会社の運営にあたり、一定期間後に会社が投資ファンドの持分を買戻すスキームです。ファンドが株式を保有する期間は、一般的に5年程度が目安で、その間、ファンドの資金力と経営ノウハウ、また人的組織やネットワークを活用し、高い成長率を目指した会社経営が行われ、その結果会社に内部留保された資金で投資ファンドから株式を買い戻すのです。

この方法は、例えば経営者に親族後継者がいるものの、まだ年齢的に若く経営経験がないような場合に、一旦投資ファンドに経営を委ね、一定期間経過後会社が株式を買戻し、経営権を大政奉還させるといったスキームとしても活用されます。

特に、この投資ファンドによるBOについては、当社は、潤沢な資金を有する投資ファンドと連携していますので、是非お問い合わせください。




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Q)社外(第三者)への事業承継の手法と留意点を教えてください。

会社を第三者に譲渡(事業承継)する場合、大きくは株式譲渡及び事業譲渡のスキームが用いられます。この他に、形式的には株式譲渡の範疇になりますが、株式交換や会社分割の手続きを経る譲渡方法がありますので、以下にそれぞれ説明します。

@ 株式譲渡
まず、株式譲渡は、その言葉の通り、現経営者が所有している株式を、会社を承継する第三者に売却するスキームです。このスキームは、会社の株主が現経営者から買手である第三者に変わるのみで、従業員との雇用関係や取引先・金融機関との契約関係等には変動がないため、事業承継後も円滑に事業を継続しやすい利点があります。一方で、貸借対照表には計上されていない債務(簿外債務)や現経営者が認識していない偶発債務等も含めて承継されるリスクがありますので、M&Aにおいては買収監査(ヂューデリジェンス)を行うことが前提となります。

具体的にM&Aにおいて通常問題となる簿外債務は、未払い賞与(賞与引当金の未計上)、退職給付債務(退職給付引当金の未計上)、回収見込がみたたない売掛資産(貸し倒れ引当金の未計上)、金融派生商品の含み損(評価損の未計上)などがあげられます。

また、偶発債務は、現時点では債務とはなっていないものの、一定の事由を条件として将来債務となる可能性があるものを言います。例えば、他社または他人の債務の連帯保証、受取手形の裏書譲渡、係争中の裁判から生ずる損害賠償責任、将来の税務調査から生じる追徴課税、金融債務のコベナンツ条項に伴うリスク、株主真実性のリスクなどがあげられます。

尚、株式譲渡の場合、会社が有している金融債務もそのまま引き継ぐことになりますが、経営者個人が金融機関に連帯保証をしている場合、これを解除することが株式を譲渡する経営者にとっては前提となります。この場合、金融機関によっては株式を買取る第三者による連帯保証の承継に難色を示す場合もありますので、その場合はこの金融債務をこの第三者の資金で返済する、あるいは当該第三者の信用で別の金融機関から会社が借り換える必要が生じます。

A 事業譲渡
次に、事業譲渡は、「営業目的のために組織された有機一体として機能する財産の全部または一部を譲渡する」ものです。若干法律用語的な説明になりましたが、例えば、工場や機械等の個別の資産と、これに加えて、会社が有するノウハウや知的財産権、顧客、従業員など、事業を成り立たせるために必要な要素一体を譲渡するものです。ただし、事業譲渡の場合、会社に属する権利義務を包括的に継承する訳ではなく、各財産について承継すべき権利義務についてはその範囲を決定し、個別の契約によって承継することになります。例えば、労働契約の承継ついては、従業員の雇用契約が買手会社に承継されるか否かは、売手会社、買手会社、従業員の合意によって決まることが原則です。この点、後に述べる会社分割とは異なりますので、注意が必要です。

また、事業譲渡の場合、譲渡対象の事業に許認可が必要な場合には、新たに買手の会社の名義にて取得する必要がありますので、この許認可の取得手続き期間においては事業ができなくなる場合があることは留意すべきです。

このように、事業譲渡の場合、手続的には若干煩雑になりますが、買手にとっては予期せぬ簿外債務等を承継するリスクが低減するという大きなメリットがあります。

また、事業譲渡は譲渡対象となる事業に係る資産及び負債の一切を含めて譲渡する契約でありますが、このうち資産の譲渡については、個々の課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して消費税が課税されることとなります。

尚、譲渡の対象として選別されなかった事業や資産については、会社に残ることになりますので、事業承継を目的に事業譲渡する場合は、譲渡時点で事業承継手続きが完了するわけではありません。会社は、事業譲渡の対価として受け取った資金で会社の金融債務を返済し、会社を最終的に清算することにより事業承継は完了することになります。

次に、株式譲渡、事業譲渡の他、M&Aで用いられるスキームとして、株式交換、会社分割、合併がありますので、以下を参考ください。尚、これらの方法は、会社を承継する第三者は、原則他社の株式を取得することになりますので、その意味では株式譲渡等の手法によって事業承継を完了させるプロセスであることはご理解ください。

B 株式交換
株式交換は、株式譲渡において、自社の株式と他社の株式を交換するスキームです。つまり、株主である現経営者が第三者に株式を譲渡する際に、その対価として、現金の代わりに買手会社の自社株式を受取る(割り当てられる)というものです。このスキームは、形式的にはあくまでも株式の譲渡ですから、上記の株式譲渡と同様、雇用関係や契約関係等には変動がありません。また、買手側の会社にとっては、手元資金が十分でない状態でも、金庫株の活用や新株の発行により他社を傘下に収めることができるという利点があります。ただし、売手である現経営者は、買手の株式を現金の代わりに受け取るわけですから、その株式は換金性が担保されていることが望まれます。また、現経営者が受取る買手の会社の株式の評価も合理的に行われなければなりません。そのような意味で、買手は必然的に上場会社であることが前提になります。

買手の株式を受け取った前経営者は、その株式が上場株式であれば、株式を売却して現金化できるわけですが、買手会社の株価が事業承継後に上昇すれば、前経営者はさらに大きな対価額を得ることができることになります。ただし、株価が下落すれば当然対価額が少なくなりますので、受取った株式を保有している間は対価が変動するリスクが生じます。

C 会社分割
会社分割は、会社法上の組織再編行為であり、本来、会社の事業再編を容易にするための法制度です。この制度により、債権者保護手続きを条件に、事業に関連する債権・債務を包括的に承継が可能となります。この点、単に事業を売買するための個別の資産・負債・契約関係などの売買契約であり、承継については個別の移転手続きが必要となる事業譲渡とは大きく異なります。

事業譲渡の場合、契約関係の承継に相手方の個別同意が必要になりますが、会社分割では、債権・債務を包括的に承継できるため、例えば、取引先との契約関係や、従業員の雇用契約等を包括的に承継できます。ただし、許認可関係については、改めて承継する会社で取得することが原則となりますので、関係当局との事前の調整を行うことが必要です。

尚、会社分割においては、債権者保護手続きとして、官報や日刊紙に会社分割公告を行い、1ヶ月の待機期間を経る必要があります。また、債権・債務が包括的に承継されますから、簿外債務については引き継ぐリスクがあることも留意が必要です。

会社分割は、会社法上吸収分割と新設分割があり、会社法2条で定められています。このうち、吸収分割は、会社が有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させるケースです。分割元の会社は、事業を承継する会社より対価として承継会社の株式あるいは金銭を受取ります。

また、新設分割は、会社が有する権利義務の全部又は一部を分割により新たに設立する会社に承継させるケースです。分割元会社は、新設会社より新設会社の株式を受取ります。M&Aにおいては、この新設会社の株式を承継会社に売却して、金銭等の対価を受取ることになります。

尚、分割後も分割元の会社は存続することとなるため、事業譲渡の場合と同じように事業承継を目的にする場合は、分割元の会社については吸収及び新設分割後に清算を行うなどの処理が必要となります。

また、会社分割における資産の包括承継については、消費税は課税されません。不動産取得税についても、事業譲渡においては課税されますが、会社分割には課税されません。不動産を多く保有する会社の会社分割の場合、巨額の不動産取得税を回避するスキームにもなりえます。

D 会社合併
会社合併は、事業承継の対象となる会社の全資産・負債、従業員等を全て、他の第三者の会社が合併し統合する手法です。

合併においても、会社法上、吸収合併と新設合併の2種類があり、それぞれ2条27号と28号で定められています。このうち、吸収合併は、会社が他の会社を合併するにあたり、合併後に消滅する会社の権利義務の全部を合併後に存続する会社に承継させるスキームです。消滅する会社の株主は、株式が消滅する対価として、金銭又は存続会社の株式を受け取ることになります。

一方、新設合併は、合併のために新たに設立する会社が、合併により消滅する会社の権利義務の全部を承継するスキームです。

吸収・新設合併は、会社を買収する承継会社から見たスキームであり、これを承継される会社から見たスキームが、既にうえで説明した吸収・新設分割と言うことになります。




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Q)M&Aの実行フローとM&A後の留意点について教えてください。

M&Aの実行フローとして、ここでは、以下のような簡単なフローを紹介します。

ファイナンシャルアドバイザーへの初期相談
   ↓
ファイナンシャルアドバイザリーとの機密保持契約
   ↓
財務データの開示と初期分析
   ↓
譲渡条件(価格)と譲渡スキームのすり合わせ
   ↓
譲渡先企業のリストアップと交渉
   ↓
譲渡先企業との基本合意契約
   ↓
買収監査(デューデリジェンス)への準備と対応
   ↓
最終譲渡条件・スキームの調整
   ↓
最終譲渡契約の締結
   ↓
クロージング(決済)
   ↓
ポストM&A

上記の手続きは、基本的な流れですが、案件/プロジェクトによっては一部省力する手続きや、手続きの順番が前後する場合があります。この一連の手続きですが、初期相談からクロージングまで通常半年程度、ケースによっては一年かかることもあります。

尚、ポストM&Aは、M&Aの手続きが完了した後、事業の継続性を維持し、かつ会社統合の効果(シナジー効果)を最大化するための手続きです。具体的には、譲渡される企業の従業員や知的資産等を円滑に承継し、顧客・消費者にも無用な不安感を生じさせることなく、これまで通りの売上を維持させるため最大限の措置を取る手続きです。この場合、売り手・買い手両社の合意のもとに、売り手企業の前経営者がM&A実施後に、一定期間、例えば「顧問」として会社に残ることも有効な手段となります。その間、前経営者が、新しく代表者となる経営者に支援と助言を提供することが重要です。ただし、その期間が長く、前経営者の影響力が大き過ぎることは逆効果となりますので、注意が必要です。

尚、上記のM&Aのプロセスにおいては、いくつかの契約を締結することになっています。最終段階の「譲渡契約」は、当然行われる契約で、これで株式の譲渡、あるいは事業の譲渡が完結します。

一方、M&Aを検討・相談する段階で、ファイナンシャルアドバイザーと「機密保持契約」を締結しますが、これは大変重要です。この機密保持契約は、ファイナンシャルアドバイザーが機密保持「誓約書」として差入れる形もあります。ファイナンシャルアドバイザーの中には、この手続きを踏まないアドバイザー/会社がしばしばみられるようですが、要注意です。

M&Aにおいて、特に会社を譲渡する立場では、機密保持の徹底は最も重視すべき点であることは繰り返し述べてきましたが、これを疎かにするファイナンシャルアドバイザー/会社は、信頼できないと判断したほうがよいでしょう。そして、M&Aの中間点となる「基本合意契約」も大変重要になります。

これは、買手候補が概ね確定したところで、一定の条件のもとで、売手・買手双方が、会社の譲渡・承継の意思を確認するものです。横文字では、LOI(Letter of Intent)とも呼ばれているものです。この基本合意書で確認される事項は、譲渡条件(金額)、譲渡スキーム、スケジュール、買収監査(デューデリジェンス)を実施するにあたっての独占交渉権、機密保持などです。

この基本的な事項を相互に約したあと、本格的な買収監査(デューデリジェンス)を実施することになります。 基本合意契約締結の後、買手側より買収監査(デューデリジェンス)が実施され、基本合意に基づいた譲渡条件およびスキームについて、最終的な調整が行われ、最終契約を締結することになります。

譲渡条件及びスキームに関する最終調整に関して、基本合意で確認された価格条件が変更されることもありますが、それは、通常は、デューデリジェンスの結果、会計データの不適切な処理、重大な簿外債務が発見されるなど、基本合意の条件に重大な影響を及ぼすと合理的に判断される事項が確認された場合に限ります。




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Q)事業承継の円滑化するために、種類株式が活用されることがあると聞きましたが、どういう株式でどのような活用方法があるのでしょうか?

平成18年に施行された現行会社法によって、種類株式活用の可能性が大きく広がり、事業承継の円滑化においても、会社の個別的なニーズに対応して、様々な活用方法が考えられます。

種類株式とは、定款によってその種類ごとに異なる内容を定めた株式ですが、会社法では、以下の事項について異なる内容を定めることができるとされています(会社法第108条)。



実際、事業承継で活用される例として、以下のような種類株式が挙げられます。

@議決権制限種類株式
例えば、先代経営者の相続財産の大部分を会社の株式が占める場合、会社運営を承継する後継経営者に株式を集中させると、他の相続人から遺留分(一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分)の主張が行われる可能性があります。そのため、会社運営を承継する後継経営者には普通株式を相続させ、他の相続人には無議決権株式を相続させることで、遺留分減殺請求による株式(議決権)分散リスクの低減を図ることが図られます。

A 取得条項付種類株式
また、経営者以外の株主が死亡した場合、相続により株式が分散してしまうことがあります。そこで、「株主の死亡」を取得条項の条件としておくことで、株主が死亡した場合には会社がこれを買い取ることとし、株式の散逸を防止することができます。ただし、取得対価は分配可能額を越えての取得はできません。尚、その分配可能額とは、概ね、全財産から、法的に確保が義務付けられている「資本」や「準備金」の額を引いた額となります。これは、無制限に株主に分配すると、会社財産をあてにしている会社債権者に不測の損害を与える恐れがあるために設けられている規定です。

B 譲渡制限株式
それから、株式の譲渡について、会社の承認を必要とする種類の株式が譲渡制限株式です。 現在では、多くの中小企業が、すべての株式を譲渡制限株式としており、そのような会社を「株式譲渡制限会社」あるいは「閉鎖会社」と言います。これにより、例えば経営者以外の者がその保有する株式を、経営者にとっては望ましくない第三者に売却しようとした場合、会社(株主総会や取締役会)はこれを承認しない判断をすることにより、株式の分散を防止することができるのです。

このような種類株式を導入する場合は、株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。例えば、譲渡制限株式を発行する場合の定款記載例は以下のようになります。

『(株式の譲渡制限) 第○条 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、取締役会の承認 を受けなければならない。ただし、当会社の株主に譲渡する場合は、承認をし たものとみなす。』

また、既発行の普通株式を種類株式に変更することも可能ですが、当該 株主の利益を害するおそれがあるため、全株主の同意が必要であるとされています。

以上、種類株式の活用にあたっては、自社の状況や経営者の希望、株主の利益に配慮した適切な設計と慎重な導入手続きが必要となります。

最後に、種類株式ではありませんが、「株主ごとの異なる取扱い」が、近年、認知症等により現経 営者の判断能力が低下した場合への対応策としても注目されています。

具体的には、例えば株式の大半を後継者に生前贈与し、先代経営者は1株だけ保有している状態において、先代経営者が株主である限りは議決権を100個とする、としておく。
さらに「(先代経営者)が医師の診断により認知症と診断された場合においては、議決権は1個となる」旨を定めておけば、会社の意思決定に空白期間が生ずることを防止することができることになります。

この「株主ごとの異なる取扱い」は、種類株式として登記されないため、 外部からその存在や内容を知られることがないというメリットがあります。





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信託の活用
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Q)事業承継の円滑化するために、信託が利用できるというのは、どういうことですか?

事業承継に際して、先代経営者や後継者の希望に沿った財産の移転を行うために、信託の活用を行うもので、平成18年の信託法改正により、幅広く利用されるようになっています。信託は、もとより「大切な財産を、信頼できる人・会社に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度で、信託契約の定め方によって自由な設計が可能であるところにその特徴があります。

具体的に、事業承継に際して活用される信託の典型として、「遺言代用信託」があります。これは、先代経営者が死亡した場合の株式の承継について定めるもので、遺言の作成に代わる手法として注目されています。以下は、遺言代用信託のイメージ図です。

「遺言代用信託」は、経営者がその生前に、自社株式を対象に信託を設定し、信託契約において、自らを当初の受益者として、経営者死亡時に後継者が議決権行使の指図権と受益権を取得する旨を定めるものです。これにより、

@ 経営者Aが生前に後継者たる子Cによる受益権の取得を定めることにより、後継者が確実に経営権を取得できる、

A 受託者Bによる株主の管理を通じて、先代経営者が第三者に株式を処分してしまうリスクを防止することが できる、

B 先代経営者の死亡と同時に後継者が受益者となることから、遺産分割等による経営の空白期間が生じない、

といったメリットを享受できます。 尚、ここでの信託は、その財産を託す相手(受託者)の属性により、民事信託(家族信託)と商事信託の二つに大別できます。民事信託の場合は、受託者について基本的に制限はありませんが、商事信託においては、信託業法による厳格な規制を受ける信託会社が受託者となります。

一方、その他の信託として、「他益信託」と「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」があります。
他益信託は、経営者が信託契約において後継者を受益者と定めつつ、議決 権行使の指図権については経営者が保持する旨を定めるものです。経営者は、議決権行使の指図権を引き続き保持することにより経営の実権を握りつつ、後継者の地位を確立させることができ、また議決権行使の指図権の移転事由などについて、経営者の意向に応じた柔軟なスキーム構築が可能できます。

「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は、経営者が自社株式を対象に信託を設定し、信託契約において、後継者を受益者と定めつつ、当該受益者たる後継者が死亡した場合には、その受益権が消滅し、次の後継者が新たに受益権を取得する旨を定めるものです。これにより、先代経営者は後継者の次の後継者を定めておくことができ、柔 軟な事業承継を実現することができます。

 












  一部のM&Aアドバイザリー会社では、仲介者やブローカーなどを介した情報収集提供活動、メール等で案件概要を広範囲にばらまく営業活動など、機密保守意識の低い行動が散見されます。これら不用意な行動は、案件概要が匿名といえども推測に基づく情報漏洩や、これに伴う企業価値の低下を引き起こす可能性があります。実際、そのような結果、私達の元にはセカンドオピニオンの依頼を受けるケースが非常に多くなっております。M&Aアドバイザー選びは、初期相談時の慎重な判断をお勧めいたします。