Q)長男に会社を承継しようと思いますが、どのような税金がかかりますか、教えてください。
親族内承継においては、現経営者から後継者に対し、会社株式や事業用資産を、譲渡ではなく、贈与・相続により移転する方法が一般に用いられます。この場合、贈与税・相続税の負担が発生しますが、事業承継直後の後継者においては、資金力が十分でなないケースが多く、場合によっては会社の財産が後継者の納税資金に充てられることがしばしばあります。このような場合、事業承継直後の会社に多額の資金負担が生じることとなり、 事業承継の大きな障害となってしまいますので、事前にどのような額になるのか、どのような節税対策があるのか、しっかり把握することが重要です。
1、暦年課税による贈与税
贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2つの方式があります。暦年課税は、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額をもとに贈与税を課税する方式です。ここでの合計額は、同じ人から2回以上贈与を受けた場合や、同一年に2人以上から贈与を受けた場合に、それらを合計するという意味です。
暦年課税における贈与税は、贈与を受けた財産の価額から基礎控除額110万円を差し引いた金額について課せられ、贈与者と受贈者の続柄、また受贈者の年齢によって、税率は10% 〜55%の累進課税となります。そのため、株式の評価額が高い場合には贈与税も非常に高額となり、後継者に多くの株式を贈与することが困難となる場合がありますので、注意が必要です。
尚、税率の体系として、直系尊属(父母や祖父母など)以外の贈与者(兄弟や夫婦など)から贈与を受けた場合や、直系尊属の贈与者から贈与を受けかつ受贈者の年齢が20歳未満の場合は「一般税率」、一方、直系尊属の贈与者から贈与を受けかつ受贈者の年齢が20歳以上の場合は「特例税率」が適用されることになります。いかがその税率です。
・一般贈与財産用(一般税率)
・特例贈与財産用(特例税率)
例えば、課税価格400万円の一般贈与財産の贈与を受けた場合、次のような計算方法になります。
( 400万円(課税価格)- 110万円(基礎控除額))×15%(一般税率)- 10万円(控除額)=33万5,000円(贈与税額)
2、相続時精算課税による贈与税
相続時精算課税は、贈与者が60歳以上の父母または祖父母であり、受贈者が 20 歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫に該当する場合に選択できる課税方式です。税率は一律20%、特別控除額は最大2500万円となっています。最大2500万円というのは1年の金額ではなく、1人の贈与者あたりの金額です。
この方式を選択した場合、相続が発生すると相続時精算課税が適用される財産の価額と、別途相続または遺贈を受けた財産の価額の合計をもとに計算した相続税額から、すでに支払った相続時精算課税に係る贈与税分の税額控除が受けられます。いわば「相続税の先払い方式」なのです。
例えば、自分の親から1年目に2,000万円、2年目にも2,000万円の贈与を受けた場合は、まず1年目の2,000万円は特別控除額の2,500万円を利用すると贈与税額は0円になります。しかし、2年目の2,000万円は残った特別控除額の500万円を差し引いても1500万円は残ります。この金額に一律税率で20%をかけた300万円が、贈与税額になります。
ただし、一旦相続時精算課税制度を選択すると、その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され、暦年課税制度によることができないため、注意すべきです。また、贈与者の相続時には、贈与財産の贈与時の価額が相続財産に合算されるため、贈与財産の価額が相続時に上昇した場合には有利に、下落した場合には不利に働きます。従って、暦年課税制度と相続時精算課税制度のいずれによるかは、贈与が可能な期間や所有財産の価額の動向を勘案して慎重に選択する必要があります。
参考:暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較
3、事業承継税制による相続税及び贈与税
平成20年に成立した経営承継円滑化法に基づき、平成 21 年度税制改正により、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除制度」(事業承継税制)が創設されています。こちらは、非上場株式等についての制度ですので、利用者は会社形態の経営者が想定され、個人事業主の経営者の利用は想定されません。
事業承継税制は、事業承継に伴って発生する相続税・贈与税の負担により事業継続に支障が生ずることを防止するため、一定の要件のもと、その納税を猶予・免除する制度です。事業承継税制(相続税)を利用した場合、下記の事例のように、大きな税負担の軽減効果が期待できます。
3-1、相続税の納税猶予・免除制度
この制度は、後継者が相続又は遺贈により取得した非上場株式について、相続開始前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の総数の3分の2を上限として、係る相続税の80%の納税が猶予される制度です。
本制度の適用を受けるためには、経営承継円滑化法に基づく経済産業大臣の 「認定」を受け、5年間平均8割の雇用維持等の要件を満たす必要があります。要件を満たせなかった場合には、猶予中の税額を納付しなければなりません。
また、以下の場合に、猶予された相続税の一部又は全部が免除されます。
@後継者が死亡した場合
A会社が倒産した場合
B後継者が次の後継者へ贈与を行った場合
C同族関係者以外に株式を全部譲渡した場合
(譲渡額が猶予額に満たない場合、その差額部分は免除され、譲渡額を納付すれば足りる)
図:相続税の納税猶予・免除制度(概要)
3-2、贈与税の納税猶予・免除制度(事業承継税制/贈与税)
後継者が贈与により取得した非上場株式について、贈与前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の総数の3 分の2を上限として、係る贈与税の100%の納税が猶予される。 要件及び効果については、以下の通り、相続税の納税猶予・免除制度と概ね同様である。
図:贈与税の納税猶予・免除制度(概要)
3-3、贈与税の納税猶予中に先代経営者が死亡した場合
贈与税の納税猶予(免除制度)の適用を受けている間に、先代経営者(贈与者)が死亡した場合には、後継者の猶予されていた贈与税は免除され、代わりに相続税が課税されることとなます。ただし、一定の手続き(切替確認)を受けると、上記の相続税の納税猶予・免除制度に移行することとなります。
以上のとおり、事業承継税制では、相続税と贈与税の納税猶予及び免除制度を組み合わせて活用することで、相続のみならず生前贈与による株式の承継に伴う税負担を軽減することができ、将来にわたる円滑な事業承継が可能となります。
4、小規模宅地等の特例
こちらは、一定の宅地等を相続した場合には、相続税の課税価格から一定の割合を減額する制度です。宅地等の用途ごとの評価額の減額割合、適用対象となる土地面積の上限は以下のとおりとなります。
具体的には、被相続人等の事業の用に供されていた特定事業用宅地は、申告期限まで事業を継続すること等の条件を満たした場合、400 uまで評価額の 80% が減額されます。
この制度は、土地を事業用に利用している個人事業主にとって、 非常に有用な制度であるといえます。 例えば、500 u、総額 1 億円の土地、相続人が子供 1 人の場合の計算例は、
【減額される額】1億円× 400u/500u ×80%=6,400万円
【相続税の課税価格】1億円−6,400万円=3,600万円
【課税遺産総額】3,600万円−3,600万円(基礎控除額)=0円
となります。
この制度は、経営者個人の所 有する土地を自社の事業に利用している会社経営者による利用が想定される。
5、退職金に係る税金
一般に、退職金はその支給を受けた人の所得税等の課税対象となりますが、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職金は、相続税の課税対象となります。以下、その内容と課税について説明します。
5-1、相続財産とみなされる退職手当金等
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職引当金、功労金その他これらに準ずる給与は、退職引当金といい、これを受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の課税対象となります。
尚、死亡後3年以内に支給が確定したものとは次のものをいいます。
(1)死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
(2)生前に退職していて、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの
5-2、非課税となる退職手当金等
相続人が受け取った退職手当金等は、その全額が相続税の対象となるわけではありません。
全ての相続人が取得した退職手当金等を合計した額が、非課税限度額以下のときは課税されません。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
尚、相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用はありません。
5-3、課税される退職手当金等
一方、全ての相続人が受け取った退職手当金等を合計した額が、非課税限度額を超えるときの超える部分の金額及び相続人以外の者が受け取った退職手当金等の金額が相続税の課税対象になります。
相続人が受け取った退職手当金等のうち課税される退職手当金等の金額について、具体的には、次の算式により計算します。
5-4.事例
被相続人の死亡によって退職手当金等を次のとおり受け取った場合
(1)非課税限度額の計算
500万円×3人(法定相続人の数)=1,500万円
(Cは相続を放棄していますが、法定相続人の数には算入します)
(2)各人の非課税金額の計算
(3)各人の課税価格に算入される退職手当金等の額
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