空調衛生設備業界
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設備工事業界は、既に復興需要が一段落したものの、都心部でのビル需要が底堅く、またオリンピック需要にも支えられ、当面堅調な動きで推移すると思われます。しかしながら、空調・衛生設備工事を含む専門工事の内製化を狙う大手準大手の建設会社やリフォーム会社などの隣接業界からの参入による競争の激化、また深刻化する技術者・資格者の人材不足とこれに伴う人件費の高騰など、中小規模の会社にとっては、経営環境の先行きが不透明であることは否定できません。

このような経営環境の中、株式上場している空調・衛生設備工事会社の株価が現状どのようになっているのか、簡単な分析を行いました。ここでの空調・衛生設備工事会社は、オフィスビルやマンション、また公共施設の暖房・冷房や換気などの空調設備工事、給排水・汚水処理などの衛生設備工事の他、消火設備工事や、冷凍特殊管設備工事を請負う会社であり、これについて上場16社をピックアップしました。尚、分析対象会社の数を増やすために、一部電気工事の比率の高い会社も含まれます。

   
売上
(百万)
営業利益
(百万)
当期利益
(百万)
純資産
(百万)
時価総額
(百万)
PBR
(純資産)
PER
(当期利益)
EBITDA
倍率
1 高砂熱学工業株式会社
289,933
16,362
12,157
124,484
152,786
1.2
12.6 6.7
2 大気社
231,898
12,180
8,858
110,650
108,754
1.0
12.3 5.2
3 三機工業
170157
6593
3885
86191
67,417
0.8
17.4 5.5
4 ダイダン
143,448
7,385
5,082
64,417
58,052
0.9
11.4 4.5
5 新日本空調株式会社
111,742
4,274
3,449
43,019
44,674
1.0
13.0 9.7
6 株式会社朝日工業社
85,064
3,833
2,760
29,187
21,692
0.7
7.9 3.4
7 株式会社四電工
77,055
2,674
2,284
44,486
20,344
0.5
8.9 6.6
8 日比谷総合設備株式会社
66,838
3,171
7,366
58,580
47,526
0.8
6.5 10.3
9 株式会社テクノ菱和
60,654
3,242
2,307
36,356
18,952
0.5
8.2 2.1
10 大成温調株式会社
51,906
2,530
1,895
22,852
13,647
0.6
7.2 1.2
11 日本空調サービス株式会社
45,467
2,481
1,567
16,349
27,625
1.7
17.6 8.0
12 北陸電気工事株式会社       
42,196
4,383
3,284
31,112
24,371
0.8
7.4 1.5
13 株式会社サンテック
40,882
1,102
1,420
30,612
15,520
0.5
10.9 4.5
14 株式会社協和日成
34,049
948
896
14,362
10,490
0.7
11.7 3.6
15 藤田エンジニアリング株式会社
29,739
2,105
1,331
11,132
9,805
0.9
7.4 2.6
16 川崎設備工業
24271
1397
1154
7214
4,836
0.7
4.2 2.3
平均 0.8 10.3 4.9


その結果、16社の株価純資産倍率(PBR)が平均で0.8倍、株価収益率では平均10倍となりました。現在の日経平均のPBRが1.2倍程度、PERについては13倍程度で推移していますので、空調・衛生設備工事会社においては、株価が比較的低迷していることがわかりました。特に、PBRが1倍以上となっている会社が、16社中4社しかないこと、つまり4分の3以上の会社で時価総額が純資産を割り込んでいることが判明したのは、特筆に値すると思います。

PBRは、会社の帳簿が正しく記載されているのであれば、本来1倍に収れんし、これに帳簿には含まれないノウハウ、技術力、ブランド力が加味されて少なくとも1倍以上になるはずですが、これが1倍を下回っているというのは、例えば、足元の業績が赤字である、赤字でなくても将来に不安がある、あるいは当面成長が期待できない、といったことが原因となっていると考えられます。しかしながら、今回ピックアップした16社の場合、業績が赤字となっている会社は1社もありません。よって、空調・衛生設備工事業界においては、事業モデルや技術にこの先変革がなかなか見込めない、あるいは何らかの要因で市場自体に当面大きな成長性が期待できないなど、株価が伸びにくい背景があることが考えられます。





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一方、M&A取引において指標となるEBITDA倍率を算出すると、16社の平均が5倍となっていました。M&Aにおいては、企業価値はEBITDA倍率の5倍程度が目安と言われていますので、その意味では、標準的水準と言えるでしょう。ただ、EBITDA倍率は、会社のネット金融債務残高が指標にとって大きな要因となりますので、平均を見るよりも個別の会社ごとに判断することもより重要となります

EBITDA倍率は、M&A取引における投資判断の指標とするもので、会社が譲渡される場合の株式価額と金融債務を合計したいわゆる「企業価値(Enterprise Value、略してEV)」を算出し、これが会社の生み出すキャッシュフローの何倍になっているかを示すものです。この場合のキャッシュフローは、営業利益に減価償却費を足し返して算出される「利払い・税金・償却前利益(Earnings Before Interests, Tax, Depreciation and Amortization、略してEBITDA)」で、企業価値(EV)をこのEBITDAで割った指標がEBITDA倍率となります。

EBITDA倍率は、PERと同様、投資対価とそれが生み出す利益との関係を見る指標と言えます。ただ、PERは、あくまで株式市場で株式に投資する投資家の立場で評価するための指標であり、よって株主に全額帰属する当期利益と時価総額を比較した倍率を見ているということになりますが、EBITDA倍率の場合は、会社オーナーとして事業を評価するための指標であるため、直接金融(資本)と間接金融(金融債務)で調達した全資金を投じる事業が、どの程度のキャッシュを生み出しているか、言い換えれば事業に投資した資金がその事業で生み出すキャッシュフローにより何年で返せるかを判断する指標になっています。

さて、今回の16社に戻りますと、16社の平均EBITDA率5倍と言うのは、M&Aで会社を取得した場合、その対価は、取得した会社のキャッシュフローにより5年で投下資本が回収できる水準となっているということになります。

一般的なM&A取引において、企業価値はEBITDA倍率の5〜10倍がディール(取引)の目安と言われています。EBITDA倍率の目安が5〜10倍といっても、投資した金額の回収が少なくても5年以上かかるとなると、買手としては若干長いといった印象を持たれるかもしれません。ましてや10倍となると、ビジネスモデルの変化の速い今日において、10年先などわからないと言われるかもしれません。しかしながら、それはあくまで直近のEBITDA、つまり現在の収益力で判断しているものに過ぎません。新しくオーナーとなる会社との事業展開により事業シナジーが生まれ、また新しいリーダーによる、新しい事業モデルが展開できるとしたら、買収後の収益力が上がり、投下資本の回収を早めることができます。

実際、私達が関ったM&Aにおいて、EBITDA倍率が10倍近くであるにも関わらず成約された案件がいくつもあります。このような案件においては、決して譲渡対象会社の過去・現状数値に縛られず、買収後会社をどのようにリノベ―トできるか、リノベ―トしていくのかを戦略的に検討し、最終的に買収を実践され、会社を急成長させて成功されているのです。対象となる会社の取得が戦略的に有意義である判断される場合、現状の数値だけで判断すると、場合によっては大きな機会損失になることも理解いただければと思います。

また、会社を安く買うことができても、これまで通りの経営を踏襲するだけでは、M&Aは失敗する可能性があるのです。

 





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ここからは、これまで当社が実際に関わった空調・衛生設備工事会社の事例を、実際の財務データを用いて紹介いたします。

事例は、首都圏のある政令指定都市を地盤に、空調・衛生設備工事を提供する「株式会社××設備」(会社名は匿名)のM&Aによる事業承継案件です。売上規模20億円超の中堅工事会社で、今回は、相談をいただいた時点での直近1期分のみその財務諸表を開示いたします。

続きは、限定公開URLで記載しております。

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  一部のM&Aアドバイザリー会社では、仲介者やブローカーなどを介した情報収集提供活動、メール等で案件概要を広範囲にばらまく営業活動など、機密保守意識の低い行動が散見されます。これら不用意な行動は、案件概要が匿名といえども推測に基づく情報漏洩や、これに伴う企業価値の低下を引き起こす可能性があります。実際、そのような結果、私達の元にはセカンドオピニオンの依頼を受けるケースが非常に多くなっております。M&Aアドバイザー選びは、初期相談時の慎重な判断をお勧めいたします。