これまで、会社を譲渡する場合に問題となる企業価値の評価方法について、
@貸借対照表を基準に算定する方法、
A市場の株価を基準に算定する方法、
B株価以外の指標を基準とする方法、
C将来キャッシュフローを現在価値に還元して算定する方法(DCF方式)
など、一般的な方法を紹介してきましたが、これらは多くの経営学の本に書いてある、いわゆる教科書的な説明と言ってよいかもしれません。
しかしながら、実際のM&Aの実務においては、よりシンプルな方法が広く採用されているというのはご存知でしょうか。
これまで説明してきた上記の方法は、会社の価値を色々な角度から算出する方法ですが、
企業の価値を判断するには、その会社固有の属性や経営環境、また様々なリスクを勘案しなければならないため、
そう簡単ではありません。
一方で、M&Aというのは、そもそも事業戦略的な企業活動ではありますが、
買手にとっては、シンプルにすでに一定程度出来上がった事業への投資であり、
これは言ってみれば不動産や金融商品への投資と同様な側面があるわけです。
その場合、投資した会社が現在のところどれだけの収益力があり、
その収益力で投資した元本そのものが何年間で回収できるかという判断が、
初期的な段階における意思決定プロセスにおいては、だれもが納得しやすいかつ分かりやすい基準になるわけです。
ここで、この時の収益力としては、通常EBITDAと言われる収益指標が使われます。
EBITDAというのは、Earnings Before Interest,Taxes,Depreciation and Amortizationの頭文字を取ったもので、
税前利益に支払利息と減価償却費を加えたものでありますが、
営業利益に減価償却費を足し返したものと考えてもよいかと思います。
また、投資としては、M&Aによって引き継がれるネットの金融債務と株式価値を加えた
企業価値(EV)が元本になります。
よって、この企業価値(EV)をEBITDAで割ったときの倍率(年数)が投資判断の基準となるわけです。
例えば、皆さんが個人的に何かに投資する場合、元本の回収が何年程度であれば
投資してもよいとお感じになるでしょうか。
一般的に、10年以上かかるとしたら、なかなかその気にならないかもしれませんね。
この、EV/EBITDAという指標は、もともと大手投資ファンドが投資指標として使っていたものですが、
それがM&Aのマーケットでも使われるようになったものです。
実際にどの程度の倍率が投資への目線になるかと言えば、現在では5〜7倍というのが、
その範囲と言ってよいかと思います。
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