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M&Aにおける価格判定

 

M&Aにおける価格判定

会社を売却する際に、どのように企業価値を算定するかについては、
すでに「企業の評価方法」のところでその概略を説明いたしました。

おさらいしますと、企業価値の算定方法として、

@ 財務会計上の純資産すなわち株主持ち分を基準に算定する方法
A 市場の株価を基準に算定する方法
B 株価以外の指標を基準に算定する方法
C 将来生み出すキャッシュフローを基準に算定する方法

を紹介しました。

これらの方法は、経営学の専門書に一般的に書かれているもので、
今更といった感もありますが、いずれにしてもどの方法が正しいと言うものでもありません。

ただ、最もシンプルに考えると、財務会計上の純資産がある時点での株主の持ち分を示しているわけですから、
それが現時点での株式価値と言えるわけです。

ただ、中小企業においては、オーナーズコストが過大になっている、
あるいは節税対策を講じているといった会社が少なくありません。

そのような場合、配当をしていないにも関わらず、
利益が正しく内部留保されず何らかの形で外部にプールされていることも考えられ、
株主資本(純資産)が積みあがっている会社はそう多くないと思われます。

一方で、実際のM&Aのマーケットでは、投下する資本がどの程度で回収できるかという買手経営者にとっては
大変現実的な指標、つまり買収価格が生み出しているリターン(キャッシュフロー)の何倍にあたるかといった基準が
最も使われ、これが多くの場合最終的な買収価格の決め手になっているのが現状です。

その結果、最終価格が純資産を上回ることもあり、また株主資本がマイナスになっていても、
株式価格に値が付くことがある訳です。



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「のれん」とは何か

 

M&Aにおける「のれん」とは何か

買収価格が高くなればなるほど、この「のれん」代がついたということになる訳ですので、
これを交渉において最大限値付けをしてもらうことで、会社を高く買ってもらうことになる訳です。

ただ、この「のれん」は、繰り返しになりますが、買収価格が会社の純資産額より大きくなる場合、
その差額が「のれん」と呼ばれるもので、財務諸表上に計上されるものであるとも言えます。

具体的には、会社を買収した後これを合併する場合、純資産と買収した株式を相殺する際に発生する「営業権」と、
買収した会社を子会社として保有する場合、純資産と買収した株式を連結相殺仕訳する際に発生する
「連結調整勘定」がそれです。


一方、会社全体ではなく、ある会社の一部の事業のみを譲渡する場合も、財務会計上「のれん」は発生します。

これは、M&Aのスキームのところで説明した事業譲渡になりますが、
この場合、対象となる事業の事業用地や設備の他、事業のベースとなる認可、従業員、顧客との取引契約、ブランドなどを一体として買収するわけですが、この時買収価格から事業用地や建物・設備の評価額を差し引いた額が
「営業権」として計上されます。

これもいわゆる「のれん」と言われるものです。 このように「のれん」というと、
なんとなくわかったようなわからないような感じがありますが、
そもそも財務会計上認識されるもので、これをM&Aにおける上乗せプレミアム価格と認識しているものなのです。



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「のれん」の実態はなにか

 

「のれん」の実態はなにか

では、このプレミアム価格としての「のれん」の実態とは何かというと、やはり経営学の専門書では
「超過収益力」と書かれており、会社がこれまで広告投資や販売実績などで構築してきたブランド力、知名度、
社歴が長ければ社会的信用、過去の取引も含めた顧客データ、流通販売網、事業に従事する人的組織、
保有している特許や認可、製造技術力、設備の拠点の立地、その他さまざまな要因で説明されます。

しかし、これも極めて漠然とした説明であり、価格交渉の際に、
これをそれぞれ評価して買手候補に提案するのかというとそういうことでもないわけです。

では、会社を譲渡する場合、この会社が持つ「のれん」をいかに表現しアピールすればよいかというと、
それはまさにこの超過収益力を作り上げている全ての要因をベースに、成長戦略としての事業計画を
緻密にかつ論理的に作成し、信頼できる利益計画に基づいた成長戦略を提示することになるかと思います。

FA会社が、会社の売却の依頼を受け相手先を選定する本格的なソーシング活動に入る際、
会社から開示された情報でインフォメーションメモランダム(IM)と言われる案件概要書を作成します。

このIMでは、会社登記簿や定款、会社組織図、株主名簿、複数年分の決算書と勘定明細書、
進行期の試算表、そして今後の事業計画が開示されます。

一部のブローカーでは、直近期の決算書も持たずに案件の売込みを行う場合があるようですが、これは論外として、
この事業計画を持たないFA会社も多くみられます。

M&Aにおいては、この事業計画がいかに重要で
「のれん」を最大限引きだす手段であることは理解する必要があるのです。



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事業計画が運命を分ける

 

事業計画が命運を分ける

では、その事業計画はどのように作成すればよいのでしょうか。

ここでいう事業計画は、少なくとも進行期を含めた売上及び収益に関する数値計画で、
定性的な事業計画や差別化戦略などを含めた事業計画に関するプレゼンテーション資料ではありません。

ここではあくまで、数値計画だけを考えていきたいと思います。

まず大前提として、事業計画は3年以上5年程度までの数値計画で、
単位としては月次の計画を積み上げたものであるべきです。

月次の数字には、過去の実績から立証できる季節指数や月次のプロモーション計画等を
折り込む必要があります。 また、この事業計画は、いくつかの前提変数をベースに作り上げるものですが、
その前提の論拠はできるだけ詳しくかつわかりやすく整えておく必要があるでしょう。

そして、その前提となっている変数を、いつでも変更して事業計画をシュミレーションできるよう、
エクセルシートでそのフォームを作り込みます。

一般的な例ではありますが、売上の伸び率の前提となる前年比のセルを設け、
これを例えば5%増から3%増へ変更すれば、事業計画全体が書き換えられるようにしておくことです。

この作り込まれた計画フォームで、数値計画の質と信頼度のレベルが決まると言っても過言ではありません。

次に、いくつかの主な勘定科目から考えていきますと、まず最も重要となるのがやはり売上です。

売上計画は、単に売上全体を前年比××%といったもので算出するのではなく、
できるだけ細かいレベニューセンター別に計画を作成する必要があります。

例えば、取引先が数十社程度であれば、そのすべての取引先ごとに月次計画を作成すべきでしょう。

例えば流通事業であれば、販売拠点別、販売チャネル別にその属性や現状を検討し、目標伸び率を設定します。
また、これに製品別の計画も組み込み、多次元的な売上計画を作成することが望まれます。

ここで製品別の計画を組み込んでおくことで、後の売上原価の数値計画の精度が増すことができるのです。

また、広告費の投入が成長のキーとなる事業モデルの場合は、
投入広告費と売上への効果や相関関係が一定程度測れる場合は、これを売上計画に反映させるべきでしょう。

特にインターネットの検索広告においては、広告予算とコンバージョン(来店あるいは購入)が
相当な確率で推測できますので、これを数値計画に組み入れることで事業計画の信頼度が上がります。

この点、新聞やテレビなどマス媒体の場合は、その効果の推測が難しいので注意が必要です。

売上計画が出来上がれば、次は売上原価です。
売上原価については、製品別の数値を計画として組み入れることが重要です。

また、売上原価については一般的にはその低減を図ることが簡単ではありません。
そこで、ここではこれまでの実績値を保守的に使用することをお勧めします。

次に販売管理費ですが、ここでは人件費計画の作成がポイントとなります。
人件費計画を作るうえで重要なのは、必ず組織戦略を描いたうえで部門ごとの頭数を決定し、
ここに最終的にどのようなコストの人材を張り付けるかで人件費の合計額を算出することです。

また、月次での事業計画を作成しますので、入社のタイミングなども、
できるだけ正確に設定することが事業計画の信頼性を上げます。

この他旅費、通信料、消耗品費など一種の変動費は、人件費あるいは売上対比で作成してもそう狂いはありません。
賃借料などの固定費も増床計画などを除けば狂いはありません。 それから、意外に忘れられがちなのが投資計画の組み込みです。

企業が事業を維持・成長させるには、常に何らかの投資が必要です。

例えば新製品の開発、製造設備の修繕、店舗のリニューアル、拠点の増設等々です。

企業はこれらの裏付けがあって成長するわけですから、事業計画にこれを組み込んで、
減価償却費を計上する必要があります。

また、この投資のための資金繰りも計画し、財務諸表に反映させることが必要です。


M&Aにおいては、投下する資金がどの程度の期間で回収できるかが、
最終的な判断の基準になると先で述べました。

その場合、買手側としてはM&Aの結果引き継ぐ金融債務もこの投下資本としてとらえますので、
買収する会社の株式価額と金融債務金額の合計が、事業計画によって導かれる将来の収益によって
何年で返せるのかということがポイントとなる訳で、これをいかに理路整然と論拠をもって作成することが
いかに重要であるかが理解いただけるかと思います。









  一部のM&Aアドバイザリー会社では、仲介者やブローカーなどを介した情報収集提供活動、メール等で案件概要を広範囲にばらまく営業活動など、機密保守意識の低い行動が散見されます。これら不用意な行動は、案件概要が匿名といえども推測に基づく情報漏洩や、これに伴う企業価値の低下を引き起こす可能性があります。実際、そのような結果、私達の元にはセカンドオピニオンの依頼を受けるケースが非常に多くなっております。M&Aアドバイザー選びは、初期相談時の慎重な判断をお勧めいたします。